「村田エフェンディ滞土録」
梨木香歩
角川文庫

2012.2.3
今からほぼ100年前の1899年、トルコ皇帝の招きで、トルコの歴史文化研究目的で土耳古(トルコ)に渡った村田エフェンディの土耳古滞在記(エフェンディとは、学問を修めた人物に対する敬称)。トルコ下宿先での、英国の女主人、ギリシャ、ドイツの若者、回教徒のトルコ人の下宿世話人との国、民族を越えた交流が翻訳本を読むような乾いた文体で語られる。日本への帰国後、下宿先の女主人から送られたきた村田宛の手紙で、トルコでの友人が戦争の犠牲になった事を知れされる。トルコの下宿先にいた懐かしいオウムがトルコでの友人の思い出として村田宛に送られてくるのだが、そのオウムに再会するとオウムが「友よ」と甲高く叫ぶ。トルコ下宿先での亡霊の類の話とか、日本に帰国した際、もうとっくに鬼籍に入っていた友人が出迎えてくれたりとか、とてもとても難解。一度読んだだけでは作者の意図するところを理解できない。かといって再度読むだけの気も起らない。他の作品も読もうとの気も起らない。
「三国志 八の巻水府の星」
北方謙三
角川春樹事務所

2012.1.7
赤壁の戦いで大勝を収めた稀代の英雄周瑜は、天下二分に向け益州への侵攻を決意するが、江陵への途中の船上で病死。涼州の馬超、益州の劉璋、揚州の孫権、荊州の劉備、魏の曹操と乱世再びとなる。劉備は天下三分実現のため、益州制覇の新しい道を目指す。
210(周瑜、益州侵攻を目前に病死) 213(曹操、魏公に昇る) 
主人公が多過ぎて一人一人が色濃く描かれないのが残念。
「三国志 九の巻軍市の星」
北方謙三
角川春樹事務所

2012.2.9
曹操六十万兵力の魏、劉備二十二万兵力の蜀、そして孫権二十万兵力の呉と天下は三分の睨みあい。劉備は、漢中で曹操自身が率いる四十万の大軍と対峙。曹操は攻めきれず魏に帰還。漢中は蜀のものとなる。荊州の地をまかせられた劉備の義兄弟の関羽が、孫権の裏切りで愛馬赤兎の子と共に戦場に散る。
214(劉備、益州征都を征圧) 215(曹操、漢中を掌握) 219(劉備、曹操軍を斥け漢中を占領。孫権、関羽父子を倒す) 
義に生きた誇り高き英傑関羽雲長が、もはやこれまでに至った時、残りの兵糧を配り「故郷に帰れ」と兵を解き僅かな側近だけを従え壮絶な死を迎えるのは、正に呂布に続く誇り高き死。北方節が冴えわたる。
「エイジ」
重松清
新潮文庫

2012.2.13
1999年山本周五郎賞受賞作品。東京郊外桜ケ丘ニュータウンにある中学二年生の僕、エイジ。同級生が犯した通り魔事件にまつわる揺れ動く中学生エイジの日常が一人称で語られる。10代の読者であるならば、その読者にそっと寄り添って勇気づけてくれる本。ただ、私には充分年をとり過ぎた。
「にごりえ」
樋口一葉
岩波文庫

2012.2.14
酌婦お力(リキ)の正に儚い生涯が書かれた作品。「われは女なけるものを」と断じた一葉が23才の若さで書かれた作品だから評価が高いのだろうか。巻末の注がなくては理解し難い点が読む流れを止めてしまうのかすんなりとは入ってこない。何の喜び、発見もない。たけくらべを読むのが楽しみ。 
「剣客同心」
鳥羽亮
角川春樹事務所

2012.2.29
何者かに惨殺された八丁堀隠密同心の父の仇を討つ長月隼人の物語。陸奥国の高津藩の世継ぎ争い、幕府御用達を狙っての廻船問屋の争い、奉行所の与力、同心、大奥中臈、江戸家老の幕閣まで巻き込んだ壮大な闇の絵巻がミステリー謎解きのように展開していく面白さ。この作品は、1.端正な小説。流麗な語り口でなく言葉一つ一つが慎重に選ばれ語られていく。2.人物の生きざまで魅了するのでなく物語の展開の面白さで読ませる。反面、感動が生まれないか。3.著者自身が剣道の練達者と云う事もあってか、立ち合いの迫真性に圧倒される、の特徴か。好きになれそうな作家に出会った感じ。ただ、最後の断罪の箇所で、隼人の烏帽子親でもある年番方与力が父親惨殺の手引きをした八丁堀定廻り同心暗殺を命じるのは物語としても何としてもいただけない。本作品は、剣客同心鬼隼人シリーズと続いていく。

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読書ノート

(本タイトルのフォント青色の書籍が、私の好きな「100冊の本」候補)

2012.2月