「三国志 六の巻陣車の星」
北方謙三
角川春樹事務所

2012.1.5
覇者でなく、帝(みがど)が秩序の中心となった国家を目指す劉備玄徳、軍勢僅か六千で領地も持たぬ劉備の三顧の礼に応えた諸葛亮孔明の二人は、覇者と見られていた曹操に対抗して立ち上がる。 
西暦207(劉備、諸葛亮を三顧の礼で迎える)208(孫権、仇敵黄祖を討伐。劉備、長坂で曹操軍の追撃を逃れる。劉備と孫権が同盟)
張飛の従者、王安は、曹操の三十万の最大軍勢に追いつめられるも、死ぬまで闘い続け死んでからも、しっかりと目を見開き戟を持って劉備の奥方を守った。その死に様、グッとくるね。
 
「三国志 七の巻諸王の星」
 北方謙三
角川春樹事務所

2012.1.11
誇りを捨てるとは、命があってもなお死する事だと、曹操軍三十万の大軍に開戦を決めた孫権。その総大将周瑜が、劉備軍とあわせ六万に満たない軍で、三十万の曹操軍を潰走させた赤壁の戦いを描く。その結果、劉備は、七万の兵と荊州四郡を得て、天下を睨みながら闘う姿勢に。
208(劉備と孫権が同盟。曹操軍三十万が赤壁で大敗)
面白いには大変面白いのだが、何故か、北方謙三特有の血滾らす感動が湧きあがってこない。
「幕末新詳解事典」
脇坂昌宏
学習研究社

2012.1.13
ペリー来航の寛永6年(1853)、二度目の来航、日米和親条約の安政元年(1854)から十五年を幕末と云う。この幕末維新は、民衆が支配層(武士)を打ち滅ばしたのでなく、支配層が封建支配を排除しようとした希有な革命、徳川から外様への政権交代である。この間の人物、歴史丸ごとガイド解説。
「風刺漫画で日本近代史がわかる本」
湯本豪一
草思社

2012.1.18
明治(時局風刺雑誌「団団珍聞」(まるまるちんぶん)、「驥尾団子」(きびだんご))から終戦後までに描かれた、希少な「風刺漫画」を約200点紹介。絵を見るだけで近代史の重要ポイントを理解できるビジュアル本(出版社紹介)。本サイズがB6と小さく漫画の解説文が読みにくいのが残念。 
「原っぱ」
池波正太郎
新潮社

2012.1.23
劇作家牧野は俳優の市川扇十郎から旧作を再演したいという申し出をうける。牧野にはとても30年前の舞台は再現できまいと思われてためらうのだが……。人の心も町並みもすっかり変わり果てた中で、そこになお残っている昔ながらの気遣いや市井の営みが描かれた心の和む人情小説(出版社紹介)。物書きを生業としている人の手本となるような小説。気負いのない文章。筋立て(ミステリーかと思わせる如きわくわくする展開)。巧みに絡ませた登場人物。どれをとっても天下一品。「六十になれば行先が知れています。むだな事を考えるのは、もうまっぴらです」と。著者自身か。
「ビタミンF」
重松清
新潮文庫

2012.1.26
2000年直木賞受賞作。人の心にビタミンのように作用する小説をとの作者の思いが込められて書かれた短編七編。もう若くない、そして人生の中途半端な時期に差し掛かった三十七、八の家の主が主人公。子供としっくりいかなくなった、妻ともかみあわかなってきた等、いまさらやし直しがきかない男親のせつなさが、そこはかとなく語られ、悔悟の念でいる読者がいるとすれば、その読者にそっと寄り添ってくれる意味で本作品は作者の意図するビタミン剤となるのであろう。父と子、夫婦、人生の重さというものが気負いなく鮮やかに描きあげられている秀作。
「ゲンコツ」もうゲンコツが柔らかくなってしまった男。勇気を絞りだし、ニュータウンのマンション前で落書きをしたり自販機をいたずらする中学生の悪ガキをどなりつける話。
「はずれくじ」妻の突然の入院で、気が弱く臆病で心配性の中一の息子とどう過ごせばいいのか戸惑うなか、自分と、山あいの小さな町での平凡な暮らしの中で宝くじ、しかも一枚だけの宝くじを買う事しか楽しみのなかった親父との関係を回顧する話。
「パンドラ」本物の恋だと信じていた男に騙された娘の事件。知らん顔をする孤独な役回りを担う父親の話。
「セッちゃん」中学校でいじめられている自分を両親に悟られまいと架空の転校生へのいじめの話に仕立てている事を知るまさにせつない話。
「なぎさホテルにて」三十七歳の誕生日、学生時代に恋人と来た思い出の場所であるホテルに、最後の家族旅行として訪れる話。 
「かさぶたまぶた」優等生ぶっていた自分を責め始めた娘、浪人中の息子の反抗の話。男親のせつなさが際立つ話。
「母帰る」無口で愛想も悪く、セメント工場で三交代勤務を定年まで続けた勤勉な工員だった親父。三十年以上連れ添った妻が、妻としての務めを全て終えたと自分から家を出てしまう。妻が一緒になった男が亡くなったので、妻をふたたび呼び戻そうとする父親の話。家族っていうのは、みんながそこから出ていきたい場所なんだよと離婚した姉が云う。 
「とんび」
重松清
角川書店

2012.1.31
腕っぷしは裕次郎で、頭はてなもんや三度笠のヤスさんの男親一人での子育ての物語。母親は産後亡くなり、父親は再婚したきり音信不通で両親の記憶をもたないヤスさんと、九歳で家族を失った美佐子さん、家族の温かみを知らぬ者同士が出会って結婚。アキラ誕生。アキラ四歳の時、美佐子さんがアキラの身代わりになる事故で亡くなってしまう。不器用で頑固一徹のヤスさん「とんび」と、心優しいアキラ「鷹」二人の長い旅路の物語。親とは寂しいもの、哀しいもの、愚かなもの、一生懸命なもの、なのに親になってよかったものとしみじみと伝わる人情家族物語。ともかく泣ける小説ベストテンに入る事は間違いない。 

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読書ノート

(本タイトルのフォント青色の書籍が、私の好きな「100冊の本」候補)

2012.1月