「レディ・ジョーカー」上
高村薫
毎日新聞社

2012.7.5
このミステリーがすごい99年度第一位。警察官一人を含むどうしようもない思いを抱えながら生きている五人の男達、自らをレディ・ジョーカーと名付けた犯人グループが、一兆円企業の日之出ビールから金を搾り取る事を狙う。登場人物がやたら多く、また複雑に絡んで社長誘拐、そして解放と話が進んでいくのだがミステリーとしての緊迫感がなく読み進めるのもシンドイ。下巻の展開に期待したい。

「レディ・ジョーカー」下
2012.7.11
レディ・ジョーカーは、日之出ビール社に人質は三百五十万キロリットルのビールと恐喝する。日之出ビールとレディ・ジョーカーとの裏取引、それに絡む警察の三すくみの緊迫感。巧みな筋建てと、当事者しか知りえない内部事情が巧みに詳述されグイグイと引き込まれる。文句なく面白い。が、しかし、レディ・ジョーカー事件に便乗した他のビール会社への恐喝、闇金融の暗躍、絡んでくる証券会社、マスコミ、地検特捜部と話が広がってくると焦点がぼけると共に緊迫感も薄れ読み続けるのがまたまたシンドイ。全くもって勿体ない。この作者の直木賞受賞作「マークスの山」もそうなのだが、やたらと登場人物が多く話をややこしくし過ぎ。読者は、シンプルに興奮と感激と面白さを求めているもの。それと、この作者の特徴は、会話が大変少なく状況説明で話が進んでいくので人物の生き様の描かれ方が薄い。
作中の気に入った言葉を最後に一つ、「歳を取ると云うのは、一つ一つ色々な物を失なっていき、失った後を埋め合わせるものがないと云うのが老い」である。
  
「赤い影法師」
柴田錬三郎
新潮文庫

2012.7.14
石田三成に雇われていた木曾谷の忍者「影」三代を主人公にし、将軍家光の前で繰りひろげられる寛永御前試合十試合の展開と共に話は進むのだが、とにもかくにも作者の豊富な奇想に感嘆するのみ。徳川方忍者服部半蔵との冷酷無残な壮絶な闘いも加わり奇想天外、波乱万丈の一級のエンターテイメント伝奇小説。正にプロの作家。書く事だけに熱をあげる作者と違い、この作者は、読者の為のサービス姿勢に貫かれている。
「血潮笛」
柴田錬三郎
埼玉福祉会 大活字本シリーズ(春陽文庫底本)

2012.7.18 
大奥に将軍家治の息女として双正児が誕生。双子にまつわる忌まわしい迷信で、絶たれる筈の片方の生命が御乳の人の必死の守護によって生き延びた事が全ての始まり。一橋治済を首魁とする禁裏占領の陰謀、暗躍する刺客団、隻腕の剣鬼、陰謀に立ち向かう二人の謎の剣士、きらら主水と笛吹き天狗。そして柴錬にしては、珍しい純愛も絡ませ軽い軽い物語と思いきや、将軍家治の「生き延びた姫を御乳の人の子息に妻わすべし」と云う幼くして許婚たる事が決められていた書状と云う正に心憎い作者の趣向に胸打たれる。とにもかくにも面白い。痛快無比。猛暑日も凌げる。
「由井正雪」
柴田錬三郎
講談社文庫

2012.7.22
家光薨去(こうきょ)を好機に、紀州公を抱き込み、世に溢れた浪人救済を名目に五千余の同志を集め幕府転覆を謀った
由井正雪事件物語(文庫帯より)。史実であるがゆえに柴錬流の虚構が許されず読み物としては面白くない。浪人たちの首魁として天下を揺るがすも切腹で志空しく終幕を告げた由井正雪の生き様に迫るなり、徳川家倒幕と云う恐るべき天下の野望を抱いた背景を柴錬流に迫ってほしかった。本作品は児童向け文庫とあるので趣旨が違うのかもしれない。

「Q&A 日本国憲法のよみ方」
反改憲ネット21 監修弓削達
明石書店

2012.7.26
憲法ってなに、こんなにある憲法違反、実行しよう日本国憲法と反改憲の立場での分かりやすい憲法解説。憲法とは、国民が国家に課すルール。国家は法律で国民に制約を課すが、その国家の行為は全て憲法によって拘束される。日本国憲法の理念は、平和主義(憲法九条(戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認)の発案者は、幣原(しではら)首相によるマッカーサーへの提言の中にあった)、基本的人権の尊重、国民主権。
「事件」
大岡昇平
埼玉福祉会 大活字本シリーズ(新潮文庫底本)

2012.7.28
恋人の中絶をすすめ、同棲を妨げようとする恋人の姉を十九歳少年が殺害してしまう。事件発生から少年の殺意の有無をめぐる裁判とその判決に至るまでの過程が圧倒的なリアリティーで描かれた法廷小説。召喚された検察側証人から被告人弁護士による巧みな証人尋問で次々に新証言を得るところは、推理小説さながら小気味よく面白いのだが、作者の狙いは面白さより違うところにあるようだ。判決は裁判官の人格、またその時々の身体的精神的状況によって影響されるとすれば「事件」となる。検事の論告も、弁護士の弁護も要するに言説にすぎず、判決だけが犯行と共に「事件」であると。

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読書ノート

(本タイトルのフォント青色の書籍が、私の好きな「100冊の本」候補)

2012.7月