「読めない遺言書」
深山亮
双葉社

2013.12.3
2010年小説推理新人賞受賞作家のデビュー作。平凡な教師の竹原は、警察から父の孤独死を知らされる。父の部屋で見つけた遺言書で「全遺産を小井戸広美に遺贈する」という、父の遺産が見ず知らずの女性にのこされた事を知る。竹原は、父が残した謎を追う事となる。

ちゃらけた綴り、軽い綴り、加えて、進まぬ筋運びにイライラ、我慢我慢で半分強は読み進めたが、読み続けるのが馬鹿馬鹿しく遂にギブアップ。小生には最悪の作品だ。

同じく、75歳、史上最高齢の芥川賞受賞者、黒田夏子の「abさんご」を、先月から時をおいて、何とか読もうと努力するもギブアップ。ひらがな文字の読み難さに加え、書いてある事が理解できない。読めない本が二冊も続き、不愉快極まりない。
「秀吉を討て」
武内涼
角川書店

2013.12.6

秀吉と戦った大名でも、侍でもない男達、根来寺の行人達の秀吉との戦いの物語。戦国時代、紀州一国をおさめる戦国大名は、いなかった。根来、雑賀と云った寺社勢力、土豪どもが治めていた。根来寺杉之坊の若き行人で忍びの「林空」は、根来忍術修験の総師「隠形鬼」より、秀吉の全国統一による、紀州の民への支配を救うため、秀吉を討て!との指令を受け、秀吉を護る甲賀忍者と死闘を繰りひろげる。東山道山中越えでの秀吉への襲撃に始まり、秀吉による太田城水攻で終わる事となる。

フロイス日本史、信長記他の膨大な研究に裏付けされた史実、巧みな筆力、臨場感溢れた忍者同士の死闘場面等など引き付けられ面白く読めるのだが、ストリーとしての完成度、納得度に不満が残る。楽しみな作家である事には違いない。
  
「魔王」
伊坂幸太郎
講談社

2013.12.9
他人に、自分の心で唱えた台詞と同じ言葉を叫ばせる不思議な力を持つ兄が、大衆を扇動する政治家と対決する話の「魔王」と、兄の死後、五年経ち、人とジャンケンして負けた事がなく、兄貴が憑いているとしか思えない弟の話の「呼吸」との二短編。

自分の利益や安全を度外視する政治家の巧言に騙されるな。俺には関係ないと思っている人間は、後になって後悔し、逃げ、無責任に意見を翻す。錯綜する大量の情報のどれが正しくて、どれが誤っているかの選択が出来ているのか。情報を検索でなく、思索をしろ。より新しくて、より信頼できる情報を、より沢山手に入れれば、議論に負けない。怒り続けたり、反対し続けろ。でたらめでもいいから、自分の考えを信じて対決しろ。

氾濫する情報に流されがちな今に生きる我々に対する警告書。たいへん上品で洒落た作品。  
「天命の扉」
遠藤武文
角川書店

2013.12.11
長野県警本部が入る庁舎の定例県議会場で県議が殺害された。殺された県議のポケットには、冤罪で処刑された人を詠んだ折句が入っていた。冤罪として騒がれた銃殺事件の犯人が、そのアリバイとして「善光寺本尊を盗み出していた」と主張していたのだが、それを証明する意味での「本尊の公開の要求」が、市長宛、ツイートされる。

事件時、傍聴席にいた人も含め、議場からは、誰一人外に出ていないと云う密室事件的殺人事件、冤罪の恨み、善光寺絶対秘仏の本尊公開要求と云った、大変気のきいた設定、筋運びに感心するも、結末が、起こり得ない殺害方法も含め、お粗末すぎる。           
「秋月記」(あきづきき)
葉室麟
角川書店

2013.12.15
専横を極める家老、宮崎織部への不満が高まっていた筑前の小藩、秋月藩で、一介の平侍、吉田小四郎による本藩、福岡藩への訴えで家老が罷免された、いわゆる「綾部崩れ」事件の物語。

小四郎は、幼い頃、自分の臆病で妹を死なせ、大事なものは自ら守らねばならぬと、学問、剣の修行に励み、何事からも逃げない男となっていく。山は山である事に迷わぬ。雲は雲である事を疑わぬ。人だけが、おのれである事を迷い、疑う。おのれである事を迷うな。悪人と呼ばれたら、悪人である事を楽しめ。それが、お前の役目なのだと、秋月藩御家騒動に便乗した福岡藩の介入を阻止するべく、最後は、玄海島へ島流しされる程、嫌われ役、憎まれ役を果たし秋月藩の独立を得る。

その凛とした生き方は、
  「独り幽谷の裏に生じ               「蘭は奥深い谷間に独り生え、
   豈世人の知るを願はんや             世間に知られる事を願わない。
   時に清風の至る有れば              しかし、一たび、清々しい風が吹けば、 
   芬芳自ら持し難し」                 
その香りを自ら隠そうとしても隠せない」 
  (広瀬淡窓の「蘭」と云う漢詩)

と、評された。

文句なしに面白い。どんでん返しにつぐ、どんでん返し。筋立ての巧さは天下一品。
「アヒルと鴨のコインロッカー」
伊坂幸太郎
東京創元社

2013.12.18
2004年吉川英治文学新人賞受賞作品。東京から大学入学の為、引っ越したアパートの隣の住人から「一緒に本屋を襲い、広辞苑を奪おう」と誘われる。ブータンからの男、その男と同棲する女、ペットショップのオーナー、そして付き合った女性の誕生日で、365日を埋めるのが夢と云う男達が絡んで、現在と二年前の話が繰り返し語られる。

話が終わりに近づいて、何故、本屋を襲うのか、盗んだ本が広辞苑でなく、何故、広辞林になったのかと云った謎が解けるのだが、退屈極まりない誠につまらない、同じような話が延々と続く面白くない話。読み終わっても何も残らない。文学賞受賞作と分かっていなかったら途中で投げていた。受賞作品との理由が分からない。
「終末のフール」
伊坂幸太郎
集英社文庫

2013.12.22
三年後に小惑星が地球に衝突し、地球は滅亡すると云う設定。三年後に確実に死ぬと云う世界を、仙台北部の丘に作られた団地の住人達の色々な終末の過ごし方を通して描かれた作品。

あと三年で地球が終わる、こんな世の中で生きていく意味があるのか。自殺しよとする人、復讐をしようとする人、子供を産むかどうか迷う人、恋人を見つけようとする人、ノアの方舟ならぬ櫓を屋上に作る人、それぞれ様々。

明日死ぬとしたら、生き方が変わるのか。今の生き方は、どれくらい生きる積りの生き方なのか。世界が終わると云っても、やるべき事があるのか。出来る事をやるしかないのか。

答えのないテーマであるが、正面から向きあう必要があるのは確か。但し、このテーマで、小説が面白いかと云えば、面白い筈がない。面白さを求めるなら読まない方がいい。この作者は、言葉を操るマジシャンで、時としてハッとする使い方で驚かしてくれる。澄みきった景色を見るような気にもしてくれる、たいそう器用な作家。 
「小説のように」
アリス・マンロー(小竹由美子 訳)
新潮社 

2013.12.25
2013年ノーベル文学賞受賞作家作品。標題作を含む、10の短編集。

「次元」自分の三人の子供を殺してしまった精神障害の夫が、妻に宛てた手紙で「子供達が、ちゃんと存在する次元があって、その次元で元気に過ごしている子供たちと会ってきた」と告げる話。

「小説のように」駆落ちしてまでも一緒になった夫を、子持ちの若い娼婦に奪われてしまった音楽教師が、新しい伴侶と恵まれた暮らしを送るようになった彼女の前に、「いかに生きるべきか」と云う自分の過去を窺わせる小説が現れる。

ノーベル文学賞作家は、どんな小説を書くのだろうとの興味で読み始めたが、手に負えない、理解できないで二作読んでギブアップ。込み入った話を、持って回った言い回しの所為か、二度読んでも理解できない。翻訳物は、本当に苦手だ。この小説を理解できる人は、尊敬に値するね。

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読書ノート

(本タイトルのフォント青色の書籍が、私の好きな「100冊の本」候補)

2013.12月