「男に生まれて」江戸鰹節商い始末
朝日新聞社
荒俣宏

2014.3.6
幕末動乱の時代、薩摩軍の江戸進攻に「日本橋の商人は、幕府の為にあるんじゃねえ、西郷軍のためにあるのでもねえ、天下のためにある」と、体を張って自力で日本橋を守る、鰹節のにんべん、金鍔の榮太楼 銘茶の山本山、三井越後屋等の日本橋老舗の若旦那衆の熱い熱い生き様の人情話。

病弱の父の為、廓に身を売った母を持つ、ならず者達になぶり殺しにされた陰間の歌坊の悲しい話等、幕末庶民の生き様、風俗そして食文化等もふんだんに盛り込まれている。    

にんべん三代目遺書の「わが身死する時、悲しんでくれる家族と友人がいて、手づくりの弔いを出してもらえる事よりも幸せな事はない。店が亡びぬよう心を砕くなど大愚の至り、財を成せば成す程、子孫に怠惰を許すだけの事。足るを知るには、財を貧者に施し遣り尽くして利欲を去ればよい」は心を打つ。

筋立ては、文句なく面白いのだが、何故か話に夢中になれない。一番大切な綴りがイマイチなのか、その理由が分からない。
「がんこ長屋」人情時代小説傑作選
新潮文庫

2014.3.19
縄田一男が選んだ、職人、それに準ずる人物を主人公にした人情時代小説6短編。何れも胸がうたれる好短編。柴錬が一番か。初めて知った乙川優三郎、他の作品も読みたくなった。
「蕎麦切おその」池波正太郎
蕎麦粉と酒しか受け付けない女、お園の数奇な生き様の物語。蕎麦切りの曲芸で店を、男を渡り歩く。

「柴の家」乙川優三郎
養子縁組で三百石の家を継ぐ事となった男が、養子先の生き甲斐のない生活をおくっていたが、何気なく覗いて出会った陶房の娘ふきと美しいものを生み出す陶工に生の喜びを見出していく話。透き通った静謐な物語。    

「火術師」五味康祐
亡夫の後を継いで強性者の鳶職の男どもを束ねる女太夫、お由が、参州浪人を不世出の花火師にする話。

「下駄屋おけい」宇江佐真理
蔵もちの店の太物屋の娘、けいが、親が勧める祝言を御破算にし下駄屋の馬鹿息子と所帯を持つ話。

「武家草鞋」山本周五郎
卑しい、汚れた世間が居たたまらず藩を退転してきた男が、「廉直、正直は人に求めるものでない」、「世間と云うものは、こなた自身から始まるのだ」と、山中で暮らしている老人と孫娘に救われる話。

「名人」柴田錬三郎
日本最後の名刀の打ち上げに生涯をささげる刀鍛冶の壮絶な話。 
「望郷」
湊かなえ
文藝春秋

2014.3.25
2013年直木賞候補作。本土と白い吊り橋で繋がっている瀬戸内海の狭い狭い白綱島で繰りひろげられる人間模様を描いた6短編集。読後に嫌な気分になる「イヤミス」というジャンルを世に広めたとの事だが、この短編集を読んだ第一印象は、小気味のよい洒落た推理小説と云った感じ。ただ、良く分からない話もあり。イヤミスと云う事ではなく、人気作家ではあるのだが、あまり他の作品も読もうとの気にはならない。迫力がない。筆者の渾身さが感じられない。
 
「みかんの花」島に来た放浪の青年について島を出ていった姉が、名の売れた作家となって、25年振りに島に帰ってくる。それには思いもよらぬ秘められた理由があった。 

「海の星」小学校5年の時、父が失踪。島の南側の町に住む漁師のおっさんが、お母さんめあてもあったのか魚やお菓子を度々家に届けに来てくれた。おっさんは、とんでもない事を伝えに来ていたのだった。

「夢の国」17歳でいきなり地主の家に嫁がされ全く大切にされず姑から酷い扱いを受けた母、そんな家で育った娘が、祖母を見殺しにして、無断外泊で恋人と子供の時からの夢であった東京ドリームランドに行く話。全く分からない。

「夢の糸」母が父を殺し、人殺しの息子として重石を背負って生きてきたと思っていたのだが。

「石の十字架」台風による川の氾濫で泥水が入り込んで家に中に閉じ込められた親子が、母親の小学校時代のクラスで孤立した者同士の親友に助けられる話。この話も全く訳が分からない。

「光の航路」受け持ちのクラスでいじめがあることで悩んでいる教師が、矢張り教師であった父が、いじめを受けていた子供を救った話で立ち直る話。

Home  Page へ







読書ノート   トップへ

読書ノート

(本タイトルのフォント青色の書籍が、私の好きな「100冊の本」候補)

2014.3月