読書ノート
(本タイトルのフォント青色の書籍が、もう一度読みたい本
2026
 2026.1
「君のクイズ」
小川哲
朝日文庫

テレビでの「クイズ番組」を舞台にした小説。クイズの問題提起前に、回答者がその問題の正解を答えた、「何だこれは」と云う驚愕、起こりえない異常事態が起きる。何故そんな事態が起きたかを解説、解き明かす話。クイズ番組のマニュアルとしても読め、なんと異常事態を納得させられる。クイズ番組と云うものの本質を突き、その仕組みを解いた新しいジャンルの小説。小川哲とは、どんな人物かと検索したら、東京大学博士課程卒とあった。なるほど、なるほどと納得。 


「十戒」
夕木春央
講談社


父と共に、伯父が所有していた小さな島を、リゾート施設開業の為、9人の関係者と訪れる。 島の視察を終えた翌朝、不動産会社の社員が殺され、そして、犯人と思われる男からの破ってはならない十の戒律を課される。この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない、守られなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる事態に。
大変緻密に仕立てられた物語。筋運びも無駄がなく、ともかく秀逸なミズテリー。ネットの書評で、「ミステリーでしか書けない興奮をこれまで書かれてこなかったミステリーで書かれた小説」とあるが、従来のミステリーとは一味違う感じだ。


「「続死ぬ瞬間」死、それは成長の最終段階」
E・キュープラーロス(鈴木晶 訳)
読売新聞社

著者は、臨死体験と死を研究した最初の精神科医。病だけを診るのでなく、患者もまた診るお医者さんと思える。ただ神を信じる世界の人だから、無神論者の小生には理解し難い話も一部にはある。
記憶に留めたい著者の指摘。「人生の意味など問うべきでなく、自分自身がそれを問われている。責任ある生き方をする事によってのみ、それに答える事ができる。死にむきあう五つのルール。「第一、患者も一人の人間。愛や思いやりを求めている。一対一の人間関係として相手に向き合う。第二、人としての尊厳を重んじる。第三、患者にありのままの自分でいるように対応する。第四、この患者と自分にどんな事を約束しているか。第五、変えられないものを受け入れる平静な心と、変えられるものを変える勇気。」誰しも限られた生命しかない事を常に心に留めているなら、生を楽しみ、感謝する生き方しかできない。あらゆる教義・神話・神秘性の中核となっているものは、死をめぐる思索である。死は必ずしも破壊的、壊滅的なものでなく最も建設的で前向きな創造的な文化と生を形作る一要素。現在の病院には、病気の経過と病んだ臓器にのみ重点を置く傾向。死の瞬間においては、病んだ臓器は、もはや主要な問題でない。末期患者に見られる5段階の反応。「第一段階、否認。第二、怒り。第三、取引。第四、抑鬱。第五、受容。」病院に入院している患者は、施設に従属させられている剥奪のプロセスに従属させられる。死にゆく患者が求めているのは、思いやりの心。死の過程は、生の一つの段階、大きな成長の始まり。死や生の質を決めるのは、死んでいく人自身。その死が、よく生きた人生の頂点になるか、あるいは、ただこの世で過ごしたある年月の終わりになるか、死にゆく人自身にかかっている。死を恐れる必要はない。命ある限り生きる事こそに関心を寄せるべき。」
きれいごとと云えばそうなのだが、刮目に値する生き方を教えられる。
必読の書と云える。

 
2026.2 
「「死ぬ瞬間」と死後の生」
E・キュープラー・ロス(鈴木晶 訳)
中公文庫

著者の「死ぬ瞬間」シリ-ズは、この本も含め6冊。この本は、1976年から10年余りに行われた本人の講演を編集したもので、著者の「エッセンス」全てが盛り込まれている。本の原題は、「Death is of Vital Importance」で、Vital は、「生死に関わる」「生にとって重大な」という意味で、直訳すると「死こそが生を決定する」と訳せる。
文庫本の帯の解説では、「生きる事、そして死ぬことの意味。人生をじゅうぶんに生きるとはどういうことか。死後の生とは何か、著者の生い立ち、体験、実践から語られるメッセージ」とある。
自らを省みざるを得ない、省みる機会を与えてくれる本。ただ、無心論者であり、死は、「無」と信じている小生には理解を超えた箇所が多い事も事実。
記憶に留めたい著者の指摘は、「人生に、生れてくる事も含め、偶然はない。神の配慮も偶然はない。苦難は、成長の為の機会。身につけねばならぬもの、身につけけるのが一番難しい事だが、それは無条件の愛、自分自身と同様に相手をお尊敬する事。人は皆、四つの部分からできている。肉体、感情、知的、霊的・直観的部分の四つ。この四つが調和していれば病気にはならない。この四つの部分の不調和が分かれば病気を治せるし、予防もできる。肉体、感情、知性、霊という四つの部分のバランスがとれていれば、人間はつねに完全な存在。何かを失うと、必ず失ったものよりもっといいものが得られる。神から授かった五つの自然な感情、恐怖、罪悪感、怒り、嫉妬心、愛。こらが不自然な感情にならないようにしなければならない。持って生まれた自然な恐怖は、高いところから落ちる恐怖と、不意の大音響に対する恐怖。この恐怖の為、生きるエネルギーの90%を費やしに日常生活に選択をしている。そのほかの恐怖は、大人から与えられたもの。恐怖のない生活ができれば、人生をフルに生きる事ができる。死に先立って自分の肉体から離れる、肉体離脱をし、先に死んだ親だったり、大事な人が出迎えてくれる。肉体は、現生の自分を包んでいる殻に過ぎない。」
必読の書。この作者は、誠に幸せな人だと思う。羨ましい。


「ものぐさ精神分析」
岸田秀
中公文庫

日本人の歴史を精神分析によって解けないものかと、歴史、性、人間、心理学、自己についての考察。  
今回再読なのだが、不可解 謎のような、例えば「時間は悔恨に発し、空想は屈辱に発する」と云った、理解し難い言葉、文章の連続で、本人の問いかけをどれだけ理解できたのか。理解し難いと云うより無理難題。
巻末の解説で、伊丹十三は「目の前の不透明が弾けとんで、世界が俄かにくっきりと見えるのを実感」とあるが、小生には理解不能。今回、再読なのだが、何故、もう一度読みたい本としたのか?
理解できないのだが、記憶に留めたい著者の指摘は、「結論は、「日本国民は精神分裂病的である」。その発端は、江戸後期のペリー来航事件。鎖国と云う、甘やかされた自閉的安住状態から、強制的開国になリ人格分裂が。分裂病質は、外的自己と内的自己との分裂。自分の仮の姿の外的自己と真の自己の内的自己の確執。人類は生物進化の畸型児。猿の胎児が、そのまま大人になったのが人。猿が極端な未熟児の状態で生まれたのが人間。人間は現実を見失った存在で、おのおの勝手な私的幻想の世界に住んでいる。人間は現実を見失った存在。畸形的な進化を遂げた生物としての人間。性の抑圧が神経症の原因。人間の性本能は無茶苦茶にこわている。恋愛は幻想。動物の育児行動は本能によって決定。自己嫌悪とは、「架空の自分」が「現実の自分」を嫌悪している状態」等などだが、こう書いていても理解不能を痛感。
2026.3 
「方舟」
夕木春央
講談社


地下建設の部屋に地震により閉じ込められた10人。水が流入し始め脱出しなくてはならない状況の中、殺人事件が。逃げなくてはのなか、何故殺人事件が。その謎が見事に納得、解決される。そして、思いもよらぬ結末。ミステリー大賞二冠も納得。
誰もが納得できる筋道の通った展開。練りに練った大変緻密な組み立てに驚愕だ。
漱石、鴎外もいいが、この手の小説も良い。ミステリー大賞二冠。この作家の生い立ちも普通でない。デビュー作も読んでみよう。


「どうせ死ぬなら、最後にミーアヤム」
ブリアン・クリスナ(訳 西野恵子)
春秋社

インドネシアで、ベストセラーとなったヒーリング小説。若者への生き抜くヒントをくれる小説。
深刻なうつ病と診断された37歳の巨漢男。自殺を決意。しかしこの町の最高の朝食、ミーアヤムを食べてから死のうと、屋台に向かうも、屋台のおじさんは亡くなっていた。死ぬと決めてからの三週間、家族想いのチンピラの親玉、子どものために働く娼婦、会社の雑用スタッフ、盲目の凧売りと、様々な人との出会い、色々な出来事から、重要な事を学ぶ。「生きていって、負けが決まるのは、倒れた時でなく、起き上がらないと決めた時」、「何事も受け入れる事、受け入れる能力が大切」と。
「読者の皆さんも、辛い状態になった時、乗り越えられる術を見つけられますように」と物語は結ばれている。 
著者の、「心が癒される 読書の面白さに気づいてもらうために、読みやすい本を作る。それが自分の役目だ」の通り、大変読みやすいが、訳者の翻訳力の貢献度も高いと思う。
小生の孫にも、お勧めと息子経由ラインをした次第。


「絞首商會」
夕木春央
講談社

夕木春央デビュー作品。十戒、方舟と面白かったので、デビュー作の、この「絞首商會」を手に取った。
法医学の一大権威であった博士が、自宅の庭、石畳に横たわる殺害屍体で発見される。この殺人事件のあった家に、過去に泥棒に入った事のある男が、事件解決の依頼を受ける。興味深い出だしで期待したのだが。
気負い過ぎた言い回し、訳の分からない筋運びに嫌気をさし、我慢我慢で 半分まで読んだがギブアップ。


2026.4
「遠い山なみの光」
カズオ・イシグロ(翻訳 小野寺健)
早川書房

ブッカー賞受賞作家、カズオイシグロの処女作で王立文学協会賞受賞作品。カズオ・イシグロは、いわゆる幻想作家のジョイス、カフカ、カルヴィーノ、ボルフスに続く哲学をテーマとする作家と云われている。訳者あとがきであは、イシグロの世界は、世界を不条理とみ、薄闇の中で手探りで動いていると。
一度読み終わっても訳が分からず再読するも何を言いたいのかわからない。
娘を自殺で亡くし、離婚もし外国での生活の中、どう生きていくのか。仲たがいの母親、娘の話を挿入し、その結末も語られぬまま話は終わってしまう。
解説では、「物語は明確な答えを提示せず、読者それぞれに解釈を委ねる形をとっている。混乱のなかでも、不条理と割り切らず、かすかでも希望をすてない生き方を。孤独な現代人が喪失を乗り越え、いかに前を向いて生きるかという心の旅」とあるが、解釈の仕様がないというのが実感。


 
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