読書ノート

「その日のまえに」
重松清
文春文庫

2014.5.9 
筆者、重松清を文筆の世界に導いてくれた恩師の突然の死で、筆者は、死ぬ事とはなんだろうと、生きる事 死ぬこと 残される事を、真っ直ぐに描いてみようと思ったと云う。涙なくしては読めない心の襞に響く連作7短編集。

「ひこうき雲」重い病で大人になるまで生きられなかった小学六年の同級生の女の子が流す涙、そして、永く生きすぎてしまい夢の世界をさまよう入院中の義母の流す涙の話。

「朝日のあたる家」42歳の高校の教師。夫が突然亡くなって八年。その人がいようがいまいが、明日は来る、あさっても、しあさっても。人が死んだ後の日常は、こんなにもすんなり流れていく。毎朝の日課ジョギングの途中で30歳になる教え子に出会う。彼女は 高校生の時、万引きで捕まった子だった。

「潮騒」余命三ヶ月の宣告を受け、小学四年生の夏の終わり、友が溺れて死んだ海水浴場を訪れる。

「ヒア・カムズ・ザ・サン」赤ん坊の時、父を亡くし、母一人子一人。早期発見の時期を過ぎた癌が見つかった母は、ストリートミュージシャンにその事実を伝える。

「その日のまえに」結婚して二十年。病院から一時帰宅した妻と、最後の外出となるかもしれない覚悟で、結婚して最初に住んだ家を訪ねる。

「その日」一年足らずの余命を宣告された妻、その後、余命は半年に変わり、ついには三ヶ月になってしまった。いずれ訪れる亡くなる日を「その日」と呼んでいたその日が遂に来る。

「その日にあとで」亡くなる少し前に三ヶ月経ったら渡してほしいと妻から預かったと云う手紙を、妻の入院中、お世話になった看護士から渡される。

人が死んでしまう事の意味は、どう考えても答えが出る筈はない。その意味を考える事が答えだと筆者は云う。

死を考える事で生き方が変わる程、真摯でない小生は、死を考えない事にしている。死を考えると叫びたくなるほど怖いからだ。
「幸せな生活」
百田尚樹
祥伝社文庫

2014.5.15
標題作を含む19の短編集。それぞれの話は、落語のオチとも思えるドンデン返し、謎解きのような「一行」で〆くられている。まさに手練による作品と云え、面白いのだが読み続ける気にはならない。何かが足りない。感動するものがない。中味のない八頭身の別嬪さんは魅力がない感じ。半分読んでギブアップ。 
「病から詩がうまれる」
大井玄
朝日新聞出版

2014.5.20
自らを看取りの医者を自認する筆者の終末期医療の現場での老、病、死に係るエッセイ集。

死に支度致せ致せと桜哉(一茶)、「災難に逢う時節には、災難に逢うがよく候。死ぬ時節には、死ぬがよく候」と、良寛は死に臨んで、薬もご飯も口にしなくなったと事だが、そんな悟りを開くのは到底無理な話。自宅で眠る様な臨終を迎える事は夢のまた夢なのだろう。

過去の記憶に繋がった世界に生きるのでなく、常に新しい世界を目指していきたいものと思う。

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(本タイトルのフォント青色の書籍が、私の好きな「100冊の本」候補)

2014.5月