読書ノート

(本タイトルのフォント青色の書籍が、私の好きな「100冊の本」候補)

2014.9月

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「村上海賊の娘」上・下
和田竜
新潮社

2014.9.17
2014年本屋大賞受賞作。足掛け7年も続いた信長と大坂本願寺との戦い。信長は兵糧攻めを決め、一方、本願寺側は、瀬戸内海を支配する村上海賊の協力を得て毛利家から10万石の兵糧の海路搬入を。信長の下知を受けた泉州侍、泉州海賊と、本願寺を応援する事となった村上海賊との海戦物語。

能島村上海賊当主の一人娘「景(きょう)姫」は、希代の荒者で、そして大層な醜女、嫁の貰い手がない20歳。一方、泉州侍の支配者、剛強無双の真鍋七五三兵衛(しめのひょうえ)と、魅力際立った登場人物に引き付けられるのだが、ひと言で云って面白くない。分厚い上・下巻を読むには忍耐力が要る。三分の一ぐらいに圧縮したら面白い話になるかも知れない。

話の展開が、海戦の中だけに限られ、またそれもダラダラと続く。海戦が主役で、主役であるべき登場人物が置き去りになっている感。また、泉州侍の独特なマンガチック言葉が最初は、魅力的な人物を際立たせるのだが、これまた鼻について不愉快。

この本屋大賞、もっと真剣に選んで欲しいものだ。
「死神の浮力」
伊坂幸太郎
文藝春秋

2014.9.24
生殺与奪権を持つ死神がこの世に派遣され、「可」と判断された人間は、八日目に死亡し、「見送り」となった人間は天寿を全うできる死神シリーズの7作目。

10歳の一人娘を殺人事件で失った夫婦が、死神千葉と共に、犯人に復讐を企てる話。

軽妙洒脱の中に心に響くテーマを提供してくれるこの作者にしては、この作品はつまらない。シリーズ物の7作目を、最初に読んだ所為かもしれぬが、展開の必然性もなく、馬鹿馬鹿しさしか伝わらない。一作目から読む必要があるのかもしれない。一つの生き方として作中述べられている、「人間はいつか死ぬが、死を見ないことにし、日々を楽しむ事しかない」と割り切れる筈もない。
「花影の花」大石内蔵助の妻
平岩弓枝
新潮文庫

2014.9.29
1991年吉川英治文学賞受賞作品。

瀬戸内に面した穏やかな小藩の千五百石取りの家老職の妻として、四人の子に恵まれた幸せが踏み破られ、最後は離別された大石内蔵助の妻りくの生涯と、忠臣義士の子、遺児大三郎の肩身を狭く生きている心根が語られる。

生きていく上で、人の力の如何ともしがたいもの、人の力の及ばぬものがあると、息を殺し、世を憚りながら生きねばならぬ哀しみが心を打つ。