読書ノート

(本タイトルのフォント青色の書籍が、もう一度読みたい本

2016.3月

「平蔵の首」
逢坂剛
文藝春秋

2016.3.4
生きて娑婆にもどる見込みのある者には、素顔をさらさないから、「長谷川平蔵の顔を見た者は、誰もいねえのよ」と、復讐を目論む.盗賊と、平蔵の闘いを描いた、「平蔵の顔」、「平蔵の首」、 「お役者菊松」、「繭玉おりん」、「風雷小僧」、「野火止」の六短編集

火付盗賊改方の長、長谷川平蔵と云えば、池波正太郎の「鬼平犯科帳」であるが、池波平蔵は、人間の愚かさ、哀しさへの平蔵の義理、人情を心得た対応、生き様が魅力なのだが、本篇は、思わぬ展開、スリラーの謎解きのような展開が面白く洒落た洒落た短編集。ほのぼのとした味わいより、話の展開の面白さ。短編の巧さが冴える。
「怒り」上・下
吉田修一
中央公論新社

2016.3.19

新興住宅地にて、共働き夫婦の凄惨な殺人事件が発生。凶行の場の廊下には、被害者の血で書かれた「怒」の一文字が残されていた。

事件から1年後の夏、物語は始まる。余命三ヶ月の母を持つゲイの男。中学の頃からグレて、男が出来ると家出を繰り返し、最後は歌舞伎町ソープランドで保護された女。男にだらしない母が原因で夜逃げを繰り返す親子で、今回は沖縄に逃げている親子。それぞれの人生が、殺人事件との関係を匂わせながら、様々に展開する。それぞれの人生は、必死に自分が信じる行動をする、しかし、最後の最後で信じてやれなかった、信じてくれなかったからと、破綻をきたす事となる。

事件は、事件で、「あの人を信じていたから許せなかった」と感動的な結末を迎える事となる。

リアルな表現に魅入られグイグイと詠む者を惹きつける作者の綴りの巧さ、展開の巧みさ、絶品である。最後には、思わず嗚咽を漏らす。

生き抜いていくなか、如何に、信じて生きる事が大切なのかを教えてくれる。素晴らしい文学作品で、名作に入るであろう。 

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