「江戸川乱歩と13の宝石」第二集
ミステリー文学資料館編
光文社文庫

2011.8.4
昭和30年代前半の雑誌「宝石」掲載のミステリー傑作集とあるが、第一集を読もうとの気にはならない。

「粘土の犬」
仁木悦子

四才の盲目の子供が作った粘土の犬が四年前の殺人事件を解決する糸口となる。わずか30ページの短編だが、最初から最後まで張りつめた緊張感が続く。達者な作家。

「獅子」
山村正夫

ローマ皇帝が腹心の近衛軍団の隊長スパルタクスに謀反人の暗殺を命する話。どんでん返しの結末は、作り過ぎたきらいがあるが、ローマ帝国国家競売の史実でこのような筋立を作るのは奇才に違いない。

「重たい影」
土屋隆夫

かっての沖縄戦戦友に勤め先の組合金庫からくすねてきた四百万円を預けにきた話。青酸カリで毒殺を目論むが両人とも死んでしまうと全くもってつまらない話。

「寝衣(ネグリジェ)」
渡辺啓助

通勤途上、淡い恋心を抱くようになった女性が何と隣りの住人。その彼女を毎夜覗き見して、彼女が他人と入れ替わっていると云う事態に展開していく話。読者を驚かす展開を目指したのだろうが何とも不自然なバカバカしい話。

「夜明けまで」
大藪春彦

銀行強盗に突然押し入られるが、凶悪な連中を残忍に殺してしまうだけのくだらない話。エロ、グロ、ナンセンス。

「金属音病事件」
佐野洋

金属音が聞こえる金属性幻聴と異常記憶力の話。独りよがりのこじつけと云った感じ。
 
「風雲」
佐伯泰英
講談社文庫

2011.8.7
交代寄合伊那衆異聞シリーズ第3弾。二百五十四年の泰平の眠りを脅かす亜米利加、阿蘭陀、英吉利諸国の圧力に抗して設けられた長崎海軍伝習所剣術方の命が老中首座より下り、長崎に行く事に。外国列強との戦いには、胆力を練り肝を鍛える剣術を学び直す大切さを指南する。左片手突き奇剣との激闘、長崎での唐人の跳梁と緊迫の連続で息つく暇なし。
「乳房」
伊集院静
講談社

2011.8.11
1990年吉川英治文学新人賞受賞作。癌で治癒率30%と宣告され入院した妻、全ての仕事を止め看護に専念する事にした夫との何気ない会話の中に潜む夫婦の情愛の物語。心温まる作品。

「くらげ」(兄が失踪した女と、弟が水難事故死した男の物語)、「クレープ」(離婚の時、生まれたばかりの赤ん坊だった娘が高校入学して会う事に。娘から私の誕生日覚えていると尋ねられる話)他、五つの哀しい優しい伊集院ワールド短編集。
「寂野」(さみしの)
澤田ふじ子
講談社

2011.8.11
1981年吉川英治文学新人賞受賞作。黒染屋こそ本業、兵法は売物にならない裏の娯しみといった吉岡憲法の死後、吉岡道場と黒染屋を継いだ嫡男清十朗が武蔵によって討ち果たされる。次兄伝七朗までも討たれ吉岡憲法の看板を降ろし黒染屋けんぽうの暖簾をあげる吉岡息女「のう」の話。美しい言葉使いの作品。 
「受け月」
伊集院静
文藝春秋

2011.8.19
1992年直木賞受賞作品。標題作含め7短編集。この人の作品は、妻が癌で亡くなった、夫が家を出た等の哀しみ、難儀に立ち向かう人々が、周りの人の優しさ、思いやりで生き抜いていく姿が、優しい言葉で美しく綴られていく。ともかく、哀しい、優しい。ただ、ガツンとくる興奮、感激はない。

「夕空晴れて」
5年前に癌で夫を亡くした母、子二人。小学生4年生になる子供の口のきき方や仕種が夫と瓜二つに似てきた。子供とキャッチボールをするのが夢だった夫に替わって子どもとキャッチボールをする話。亡き夫の優しい友人たちに支えられる人間模様が暖かい。

「切子皿」
夫が家を出てしまい、息子一人を駅弁売りで育てた母が遺した母名義の土地の件で、20年振りに京都にいたと分かった父に会いに行く。伝えた覚えがないのに、父は何故か息子の名前を知っていた。やるせない悲しみが漂う作品。

「冬の鐘」
二十歳を過ぎてから板前の修行をはじめ、鎌倉に店を出す事と。腕も経験も何もかも半人前。残りの半分は正直で足していけと世話になった店の主人に「はる半」と店の名前をつけてもらう。 

「苺の葉」
父を亡くした家族。母と高校生の娘、小学校に上がったばかりの弟。弟の面倒と、母の看病に追われ結婚も出来なかった、そんなお姉さんの若い時の恋の出来ごと。

「受け月」
社会人野球の熱血監督。孫娘の夫が、監督に引退の引導を渡した会社専務の息子。その息子が、成功が五分五分の危ない手術を受ける事に。頑固親父の優しさ、思いやりをさりげなく綴った作品。
「邪宗」
佐伯泰英
講談社文庫

2011.8.24
交代寄合伊那衆異聞シリーズ第4弾。長崎海軍伝習所で剣術教授方に就いた座光寺藤之助。闇討ちを図った千人番所の佐賀藩士返り討ちの報復を狙う肥前者死に狂いどもや、フェンシングの達人南蛮剣士達を信濃一傳流で撃退する。また、隠れキリシタン狩りをする小人目付には、散弾銃で対抗と、正にエンターテイメント小説の神髄。ともかく読み始めたら止められない面白さ。
小説の面白さは、主人公の生き様に共感できるのかどうかだ。共感できる生き様ま中で、主人公が思う存分その意志を貫く姿が読む者を惹きつける。交代寄合伊那衆異聞シリーズは、迫力ある立ち合いシーン、展開の面白さ、特異な登場人物とどれをとっても絶品なのだが、何たって主人公藤之助の清々しい生き様が良い。この作者は、自らを物書き職人と云っておられるようだが、このシリーズは職人技の本である。
「ロスト・シンボル」
ダン・ブラウン(越前敏弥訳)
角川書店

2011.8.26
「天使と悪魔」、「ダ・ヴィンチ・コード」に続く世界的ベストセラーシリーズ第三弾。ワシントンDC.を舞台にフリーメイソンをめぐる謎を追う12時間。呼び出された合衆国連邦議会議事堂に行ってみると、何と呼び出した筈の男の切断された手首が。その手首に彫られた刺青の暗号は、地下の立ち入り禁止の保管区の部屋番号だった。そこには、フリーメイソンに語り継がれた古の神秘の隠された場所を示す石のピラミッドが。ものの見事に仕組まれた展開、フリーメーソン最高階級第三十三位階最高大総監、CIA保安局長、合衆国連邦議会議事堂建築監、古の神秘を手に入れようと目論む全身刺青の男と云った謎の多い登場人物と興味が失せる事なく読める。但し、展開の面白さだけで心が揺さぶられるような興奮はない。
「水滸伝・十七 朱雀の章」
北方謙三
集英社

2011.8.28
禁軍総師童貫が出陣し双頭山を陥す。飛礫でかろうじて童貫軍の更なる進攻をを食い止める。虚偽の講和画策で時間稼ぎをし、その間梁山泊は軍勢を立て直す。塩の道をつくった蘆俊義、天に替わって道を行う「替天行道」の檄文を持って同志を募る為、全国を巡った魯智深もなくなった。親しい友人が亡くなっていく感じ。最後の闘いを迎えつつある。
「ロスト・シンボル」下
ダン・ブラウン(越前敏弥訳)
角川書店

2011.8.31
人質となった友を救うには、フリーメイソンが代々守り伝えてきたという古の神秘を探し出さねばならない。アメリカ建国の父祖が首都ワシントンDCに散りばめた象徴を追って宗教象徴学専門のハーヴァード大教授が駆けめぐる(角川書店)。ともかく読者を裏切る展開、棺のような箱の中で、液体に沈められるが何と死ぬ事は無いとか、謎の全身刺青の男の正体のどんでん返し等など、大変面白く読めるのだが最後の最後、読み終わって興奮も納得も何も残らない。展開も独りよがりの無理があり納得できない点が多い。一番のポイントのCIAが盗み撮りされたフリーメイソン内部の秘儀の画像をどうして手に入れたのか全く説明がないのがその典型。世界的ベストセラーは信じ難い。
作者は、監督教会の信徒として育てられたのだが、ビッグバンを知り、聖書の記述はおかしい、科学のほうがずっと合理的だと、すぐに宗教から離れたのだが、最終的には宗教に戻ったとの事。聖書でも買ってみるか。

読書ノート   トップへ

Home  Page へ







読書ノート

(本タイトルのフォント青色の書籍が、私の好きな「100冊の本」候補)

2011.8