「戦いすんで日が暮れて」
佐藤愛子
講談社文庫

2010.4.2
1969年直木賞受賞作品。破産したお人好し亭主に代わって借金取りに対応する女流作家の日々を綴った私小説。著者の日常を彼女の筆力で面白おかしく読ませるが日常が綴られただけという感じ。 
「落日燃ゆ」
城山三郎
新潮文庫

2010.4.5
1959年毎日出版文化賞、吉川栄治文学賞受賞作品。東京裁判で戦争責任を問われ、A級戦犯として処刑された7人のうち唯一の文官であった広田弘毅元首相生涯が描かれた伝記小説。「物来順応」、「自ら計らぬ」徹底した生き方、希有な人間性が、ものの見事に浮き彫りにされ、大変感銘を受ける。巻末に参考資料として、52冊の本が列挙されているが、且つそれも主要参考とあるから参考にした資料はとてつもない量になるのだろう。文筆家という職業の大変さを知る作品でもある。
「聖家族のランチ」
林真理子
角川書店

2010.4.10
銀行員の夫を持つ44歳の料理研究家の人も羨む家族が、彼女の浮気で崩れていく姿を描いた作品。小説を面白く読ませるには「文章力」か「散りばめる材料の工夫」が要るのだろうが、この作品には見当たらない。ストーリが薄気味悪く読んでいても気分が悪い。読み終わるのに大変な忍耐が要った。
「乳と卵」
川上未映子
文藝春秋

2010.4.11
2007年芥川賞受賞作品。大阪から訪ねてきた39歳の姉と、その娘そして私三人の不可思議な夏の三日間を描いた作品。芥川選評では「大阪弁口語調の文体が巧み」、「慎重に言葉を編みこんでゆく才能は見事」とあるが、それだけで良いのかといった感じ。
「人生論ノート」
三木清
新潮文庫

2010.4.11
「死について」から「個性について」の23項目についての啓示書。旅の友となる本。しかし、理解できない言葉、単語が多く自分の知性の無さを恥じ入る。多くの考えるヒントをくれる。例えば、「習慣について」:ある意味では、人生において習慣が全てである。「怒について」:人は軽蔑されたと感じた時、最もよく怒る。だから、自信のある者は余り怒らない。「人間の条件について」:自己を集中しようとすればする程、自己が何かの上に浮いている様に感じる。いったい何の上にであろうか。虚無の上にと云うの他ない。「利己主義について」:我々の生活は期待の上に成り立っている。期待は他人の行為を拘束する魔術的な力を持っている。我々の行為は絶えずその束縛のもとにある、と等など。 
「飼育」
大江健三郎
小学館「昭和文学全集16巻」

2010.4.12
1958年芥川賞受賞作品。隔絶された小さな村の森に飛行機が落ち一人の黒人兵が捕虜となり、僕および子供達がその黒人兵を飼う事となる。友達遊びができるようになるほど親しくなるが、村の大人たちがその黒人兵を捕らえに来た時、突然黒人兵は僕を人質にする。最後まで楽しく読めるが、きっと難解な作者の思いが作品の底に流れているのだろう。戦前派の人とは越えられない精神的壁みたいなものを感じる。不思議と文体に気品を感じる。
「寂滅の剣」
北方謙三
新潮社

2010.4.16
剣豪小説日向景一郎シリーズ完結編。日向流を継ぐ兄と弟。2人の宿命の対決を前に、兄弟の暮らす薬草園を付け狙う勢力が現れ、日向流に関わる者すべてが巻き込まれてゆく。問答無用に面白い。北方謙三は好きな、いや大好きな作家の一人。文章の切れ、話の展開等が、無駄がなくグングン引き込まれていく。この作者の代表作は何なのだろう。是非、この作者の一冊を100冊の一冊に入れたい。
「対岸の彼女」
角田光代
文藝春秋

2010.4.18
2005年直木賞受賞作品。30代同士と女子高生同士二組の微妙な人間関係を描いた書。受賞選評では、「瞠目」「楽しく読み進むことができる」、「読後感は爽やか」と絶賛されているのだが、話の展開が単調で読み続けるのに大変苦労した。矢張り、小説は、ある種感動を呼び起こさせるか、面白いかではなくてはいけない。
「梟の城」
司馬遼太郎
新潮文庫

2010.4.21
1960年直木賞受賞作品。秀吉暗殺に忍者としての生き甲斐をかける伊賀忍者、それに敵対する甲賀忍者、女忍者(くノ一)等の多彩な人物が絡み絡んで展開していく痛快忍者、歴史小説。文句なく面白い。読者をグイグイと引き込み酔わせてくれる。司馬小説は、項羽と劉邦、花神、坂の上の雲等どれをとっても、私の好きな100冊のうちの1冊になるが、司馬遼太郎実質のデビュー作品、この「梟の城」を1冊としよう。
「愛の領分」
藤田宜永
文藝春秋

2010.4.23
2001年直木賞受賞作品。妻に先立たれた仕立て屋を営む男、昔の遊び友達だった友人、その妻でかつての不倫相手の女、そして不倫相手の自殺を経験した女、この4人の愛憎を描いた恋愛小説。少ない登場人物、白か黒かの展開しかない恋愛小説なのに最後まで飽きさせない。上っ面だけの滑った転んだの展開でなく、人情の機微に触れた筆使いが良いのだろう。見事な作品。
「高円寺純情商店街」
ねじめ正一
新潮文庫

2010.4.24
1989年直木賞受賞作品。高円寺商店街乾物店の小学校4年生の一人息子の目に映った商店街に暮らす人々のあり様を綴った作品。作者本人の実家の乾物屋と商店街での話が元で、日常が誠に細やかに描かれ、物の見事に浮かび上がってくるが、何か物足りない。小説には、嘘と思えない嘘があった方がいい。
「友よ静かに瞑れ」
北方謙三
角川書店

10.4.25 
1983年直木賞候補作品。刃傷沙汰で留置場に繋がれた友人を助けに友人の老舗旅館がある温泉街に乗り込むが、旅館乗っ取りを企む観光ホテルのオーナーとの壮絶な争いに巻き込まれていく。簡潔な語り口、テンポの早い展開、複雑に絡む人間模様、読み物としては最高に面白い。展開が気になり、最後まで一気に読んでしまう。ただ、最後の幕切れが少し不満。
「人間万事塞翁が丙午」
青島幸男
新潮文庫

2010.4.28
1981年直木賞受賞作品。日本橋堀留町、仕出し弁当屋「弁菊」を、戦後は旅館「花屋旅館」を女将としてを切り盛りする作者の母親を主役に、下町の人間群像を描いた作品。落語の脚本にしてもいいような軽妙洒脱な言い回しで、最初の数ページで引きずり込まれた。思わず吹き出してしまう箇所が随所にある。文句なしに面白い。 処女作が直木賞受賞という離れ業の作品でもある。
「英語屋さん」
源氏鶏太
集英社

2010.4.28
1951年直木賞受賞作品。英語という特技で20年もの長い間、嘱託で生き残っているサラリーマンを描いた作品。ペーソス溢れたサラリーマン小説。 
「それぞれの終楽章」
阿部牧朗
講談社

2010.4.29
1987年直木賞受賞作品。7回候補となり8回目で受賞。借金の保証人になったために自殺した幼馴染の葬儀出席の為に故郷秋田を訪れ、同級生たちと再会。40年前の時間の中へ戻っていく。友の死を契機に終楽章間近になった人生を顧みて自分を支えてくれた友人、父の愛、妻の献身に気づく。人生の哀歓と陰影が巧みな筆致で描かれている。自分がその場に居合わせていたかの如く、情景が飛びこんで来る程筆致が良い。
「恋文」
連城三紀彦
新潮文庫

2010.4.30
1984年直木賞受賞作品。結婚10年目にして夫に家出された歳上でしっかり者の妻の戸惑い、家出の原因を作った夫の元彼女との奇妙な関係を綴った作品。たいへん面白いストリーの展開で感心させられるが、作為的に文章を作っている感じが好きになれない。「紅き唇」他の短編は遠慮した。 読者は我儘です。

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(本タイトルのフォント青色の書籍が、私の好きな「100冊の本」候補)

2010.4