「明日の記憶」
荻原浩
光文社

2014.2.1
2005年山本周五郎賞受賞作品。五十歳の広告代理店の上げ底部長、若年性アルツハイマーと診断され、いまこの時を書き留めておかないと、永遠に失われてしまう気がして備忘録を書き始める。アルツハイマー病は、記憶を損なわれるだけの病気でなく、人格も失われ、平均して7年で死に至る。痴呆症の人は、笑った顔の下で泣いているのだ。記憶の巨大な空洞の前でたじろぎ、牢獄と化した肉体の精神の中で助けを求めている。記憶の死は、肉体の死よりも具体的な恐怖と、恐怖と嫌悪と怒りに振り回される。

しかし、学生時代、友人と訪れ指導を受けた事があった奥多摩日向窯の陶芸家、今は自分より進行した痴呆症になってしまったのだが、その陶芸家と、娘夫婦の為の夫婦湯呑みを焼きながら、たとえ自分の記憶が消えても、過ごしてきた日々が消えるわけじゃない、失われた記憶は、私と同じ日々を過ごしてきた人たちの中に残っているのだと知る。

愉快でないテーマなのだが、気が滅入り押し潰されそうな展開の果てに、ほのぼのとした洒落た終わり方で救われる。
「与謝蕪村」
大谷晃一
河出書房新社

2014.2.3
蕪村の出生から死まで、18巻にわたって蕪村の身ににまつわる変貌、その時の世の中の出来事が綴られた力作。読み本と云うより保存本。

蕪村は、妾であった丹後与謝村の百姓娘の子として生まれる。蕪村13歳の時、母31歳の若さで死亡。17歳の時、父が亡くなり、22歳の時、江戸に出る。  
「風姿花伝」
世阿弥(野上豊一郎、西尾実校訂)
岩波文庫

2014.2.6
亡父観阿弥の遺訓にともづき、五百五十年前に書かれた世阿弥最初の芸術論。能楽の聖典として連綿として読み継がれてきた。観世家、金春家などに一子相伝として深く受け継がれ、接する事ができなかった内容。父から伝えられたものをそっくり子孫に伝えようとする情熱に貫かれていると。

じっくり読んでも字面を追うだけで訳が分からず、途中でギブアップし、講談社、林望「すらすら読める風姿花伝」に切り替えるも、今度は、抜粋の感じで面白くなくこれも途中で止め。 
「キャパの十字架」 
沢木耕太郎
文藝春秋

2014.2.14
アメリカのライフに1937.7.12に掲載された死の瞬間が撮り切られた写真「崩れ落ちる兵士」は、それを撮ったとされる戦争カメラマン、ロバート・キャパを一躍有名にした。その写真は、その余りの迫真性の為、本当に死の瞬間を撮ったものか、写真用にポーズが取られたものなのか、キャパが、何も語らず、40歳の若さでインドシナで地雷を踏んで死亡した為、その真贋論争が長年にわたり続けられてきた。筆者は、その真贋につき、銃撃された兵士が、写真のように後ろにのけぞって倒れるには、弾丸の運動量が、音速の80倍で飛んでこないと人を後方に吹き飛ばす事は不可能で、兵士は撃たれて倒れたのではない、現地スパインの現地迄訪れ、たまたま滑ったのだと推論付ける他、この写真は、キャパでなく、恋人ゲルダが撮影したものと推論する。そのゲルダも、写真が有名になる前に、スペインで戦車で轢かれ26歳で亡くなっている。

キャパは、その写真を撮った「偉大なキャパ」として、大きな十字架を背負う事になり、本当の戦場を求める一本道を歩き続け命を落とす事になってしまう。人と云うものは「生きてきたようにしか、死ねないもの」を思い起こす。

筆者は、二十年以上に亘って、最新の映像技術を使って、この写真と取り組み、この執念とも思われるドクメンタリーで、問題の写真は、キャパでなく、恋人ゲルタにより撮られたとの新たなる謎を提起している。2013年司馬遼太郎賞受賞作品。
「小さいおうち」
中島京子
文藝春秋

2014.2.17
読み始めて、あれ、こんな場面があったような感じがするなと、読み続けたのだが、50ページ過ぎ、本読書ノートをチェックした。矢張り、三年前の2011.9に読んでいた。本を買ってきたら既に、その本が本箱にあった、その類い。心を揺さぶられる程でなかったと云う事か。一語一語読んでいないのか。情けない。 
「ドンナビアンカ」
誉田哲也
新潮社

2014.2.21
身代金目的の誘拐事件。被害者は、飲食チェーン店専務。その愛人の中国人のキャバクラ譲。彼女の不法滞在回避目的の偽装結婚をする、彼女の恋人、酒店勤務の配達人と、本シリーズ主人公魚住久江巡査部長の二人の話が同時並行で進んでいく。

強行犯捜査係の魚住久江巡査部長シリーズ第二弾。予想外の展開はあるのだが、誉田哲也らしからぬ平凡な警察小説。シリーズ物の主人公の違いによるそれぞれの筋運びがあるのだろうが、このドンナビアンカには、独特の誉田哲也ワールドが見られず残念至極。 

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(本タイトルのフォント青色の書籍が、私の好きな「100冊の本」候補)

2014.2月