「空白を満たしなさい」
平野啓一郎
講談社

2014.4.3
病院の院長から、「三年前、ビルから転落した貴方の遺体検視をした」と物語は始まる。そして、妻からは、「私と一人息子を置いて、どうして自殺するの」 と詰問される。自殺なのか、誰かに突き落とされたのか。一歳半の時、亡くなった父が復生したりと、不気味な展開なのだが、なんせ話が廻りくどすぎ、加えて、リアリティがない死んだ人間が復生する話で、話に入っていけない。

自分の中には色んな自分がいるのだが、自殺とは、間違ってしまっている自分を、そうでない自分が消してしまう事。この話は、作者自説の分人論を物語仕立てにしただけのもので、作者の「私とは何か」の二番煎じで、物語仕立てには失敗。  
「生きる」
乙川優三郎
文春文庫

2014.4.9

2002年直木賞受賞作。「生きる」、「安穏河原」、「早梅記」の3短編。生きていく事の苦難にひるむ事ない凛とした生き様の物語。侘びしい、醜い人間の業が切なく、切なく語られる。

「生きる」
藩主死去にともなう追腹で、跡取り息子、娘婿も失うなか、家老より藩の為、生きてもらいたいと頼まれ、藩の皆からは、卑怯者 臆病者 恩知らずと罵られ、孤独や悔悟と戦いながら老いてゆく武士の悲哀が綴られる。

「安穏河原」
執政との意見の食い違いで退身した武士。病弱の妻の治療代もあり、娘を女郎屋に売る。身売りされた娘の誇りを失わない生き様が語られる。 

「早梅記」
若い時は出世をする事に汲汲として 家老までに登りつめるも、後に残ったのは屋敷と高禄。出世の為、妻亡き後、家政を任せ事実上の夫婦だった女を捨てる。隠居生活の散歩のなか、その女と23年振りに遭遇。静かに幸せに暮らす女の暮らしを覗くと共に、女の変わらぬ優しさに触れ、永い間、縛られてきた心の貧しさから解き放たれる。心うたれる秀作。  
「腐海の花」
柳原慧
廣済堂

2014.4.13
W不倫が原因で別居中のフリーのデザイナーの女の17歳も年下の恋人に,、若い元キャバクラ嬢で舞台俳優の女が現れる。一人の男を挟んで、女二人がどろどになって戦う物語。中味のない全く面白味もないスリラー。 
「放課後」
東野圭吾
講談社文庫

2014.4.17
1985年江戸川乱歩賞受賞の東野圭吾デビュー作。女子高内の密室となった更衣室で生徒指導の教師が青酸中毒死していた。そして運動会の仮装行列の衆人環視の中での第二の殺人が発生。

見事に解明された筈の密室殺人のトリックが覆る事実がでたり、どんでん返しの殺人が起きたり、わきわきドキドキの質の高い大変面白いミステリー。一気に読み切った。 
「影法師」
百田尚樹
講談社

2014.4.22
下士の息子として生まれながら、国筆頭家老にまで上り詰めた男の人生の不思議が語られる。七歳の時、父が上士により無礼討ちで切り捨てられた時、武士の子が泣くものでないと励まされた子と藩校で再会し、刎頸の友となる。その友より生きる勇気を与えられ、二度までも命を救われる。

これでもかこれでもかとお涙頂戴の術が繰りだされ、面白い事この上ないのだが、命を懸けて守ってくれた友、全てを捨てて生きたその友の話が、余りにも現実離れがし過ぎて、作り上げられ過ぎたお伽噺。話がうますぎる。
「鉄の骨」
池井戸潤
講談社文庫

2014.4.28
2009年直木賞候補、2010年吉川英治文学新人賞受賞作。大学で建築の勉強をしてきた富島 平太は、四年前に中堅ゼネコンの一松組に入社し、一貫して建設現場で働いていた。突然、営業トップの役員のお声掛かりで談合課と揶揄される大口公共事業の受注部署に転属になり、巨大な公共工事受注を取り仕切り、天皇と呼ばれる業界の大物フィクサーへの窓口担当をする事となる。東京地検特捜部、道路族の大物議員も絡んだ談合の実態を暴いた経済小説。 

650頁に及ぶ大作だが、ゼネコン業界、談合の実態を知らぬ者には、厭きる事なく大変面白く読める。しかし、面白いだけでなく心に響く、心を打つものを求めるのが読書ではないだろうか。    

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読書ノート

(本タイトルのフォント青色の書籍が、私の好きな「100冊の本」候補)

2014.4月