「ノルウェイの森」 上巻・下巻
村上春樹
講談社刊
 
2010.3.1
清涼な川の流れのように展開していくストーリーに「上巻267ページ」を一気に読みきった。文章の巧みさに感嘆。下巻も一気に読みきったが、ただ上巻ほどには馴染めなかった。村上ワールドは人により好き嫌いがあるだろう。
「容疑者Xの献身」
東野圭吾
文藝春秋刊

2010.3.3
2005年下期直木賞、2006年本格ミステリ大賞他、五冠獲得ミステリ。冒頭、犯人が出てくる殺人現場から始まり、これからどうような展開になるのか興味を引かれたが、全く予想外の結末で最後の最後まで著者に裏切られた。巧みな筋立てに恐れ入った。
「名もなき毒」
宮部みゆき
幻冬舎刊

2010.3.5
2007年吉川英治文学賞獲得作品。「いやぁ 面白かった」。久し振りに好きになれそうな作家に出会った。語りも良い。代表作「理由」も読みたくなった。

「喪神」
五味康祐
講談社刊(芥川賞全集五)

2010.3.6
1952年下半期、芥川賞を獲得した作品。このとき31歳。そんな若さでの「こんな奥深い語り」と「思いもつかない着想」に驚き。なんと、剣の道では、「人間の本能である臆病心に徹する事こそ修行の第一歩」と言う。

「理由」 
宮部みゆき
朝日新聞社刊

2010.3.9
1998、下半期直木賞受賞作。筋の面白さのみならず、筋の運び方の巧みさが凄い。書棚に置いておきたい一冊。準備と推敲に相当な時間を掛けた著者の執念みたいな物を感ずる。ただ、冗漫な説明文が延々と続く個所は読むのに忍耐が要る。興味が失せてしまう。
「月山」
森 敦
文藝春秋刊(芥川賞全集十)

2010.3.10
1973年下半期芥川賞受賞作。山形弁が心地よく響く
「えもいわれぬ雰囲気」の民話の世界の如し。
小雨に中に霞んだ、息を飲むほどに神々しかった「羽
黒山」を思い浮かべた。


 
「風味絶佳」                                      羽黒山
山田詠美
文藝春秋刊

2010.3.10
2005年谷崎潤一郎賞受賞作。私には響いてくるものがない。
「鯨神」
宇野鴻一郎
文藝春秋刊(芥川賞全集六)

2010.3.12
1961年下半期芥川賞受賞作。傑作だ。とてつもない物語。これだけの物語を作るのにどんな時を過ごしたのだろう。石川達三は「芸術家と売文業者の違いは、作者の魂が、その作品にあるかないかだ。この小説には作者の魂が投げ込まれてはいない」と酷評する。しかし、私には、この小説は間違いなく「芸術家」の作品である。そもそも、芸術は、ある人には感動を、ある人には嫌悪を、なのかも知れない。(粗筋
「家族シネマ」
柳美里
凸版印刷刊
 
2010.3.12
1997年芥川賞受賞作品。何のインパクトも感じない前衛絵画のごとく、訳の分からぬままに読み終わってしまった。家族シネマ単行本同時収録の「真夏」も言葉が徒に踊る感じで言い回しがきになる。
「蒼氓」
石川達三
文藝春秋刊(芥川賞全集一)

2010.3.13
1935年、第一回芥川賞受賞作。「作者の魂が投げ込まれていない作品は売文業者のもの」と云う石川達三の言葉に惹かれ、「それでは」と、この本を読む。この本を読み終えて、「作者の怒り」を感じたのか、何故か「打ちひしがれた、うら寂しい気持ち」になった。当時の日本には、「生活の絶えざる脅威と圧迫、絶えざる反抗と焦燥、不安と怒りと絶望」ばかりで、一方ブラジルでは「昨日と今日との間に何の区別も無く、昨年と一昨年との間に何の変化も無い」と。これは石川達三が移民と共にブラジルに渡った後の、「幸せとは何か」の結論なのか。
「されど われらが日々ー」
柴田 翔
文藝春秋刊(芥川全集七)

2010.3.14
1964年芥川賞受賞作品。著者29歳の作品。人間の永遠のテーマを追い求めた傑作。グイグイと引き込まれる。「終章」の段で、思わず深呼吸を。
「広場の孤独」
堀田善衛
文藝春秋刊(芥川全集四)

2010.3.16
1951年芥川賞受賞作品。ともかく読むのに疲れた。我慢我慢で最後まで読んだが全く分からず。大半の選考委員が絶賛しているところをみると、小生の知的レベルを恥じ入る。 
「玩具」
津村節子
文藝春秋刊(芥川全集七)

2010.3.17
1965年芥川賞受賞作品。淀みなく綴られた正に端正な小説。ただ、端正すぎて胸に迫ってこない。石川達三は評して曰く「よく書けた作品だが、それ以上のものが無い。大きさも無いし、高い精神も見られない」と。でも、綴り方の格好のお手本である事には違いない。次は、この作者の評価の高い「さい果て」を読んでみよう。  
「闘牛」
井上靖
文藝春秋刊(芥川全集四)

2010.3.18
1949年芥川受賞作品。何たって、筋の運び方、読者を
引き付ける材料の配り方が巧みで文筆家スペシャリストと
いった感じ。一分の隙もない作品。井上靖処女作「猟銃」
読みたくなった。


   
「本の話」                                      伊豆湯ヶ島 井上靖旧邸
由起しげ子
文藝春秋刊(芥川全集四)

2010.3.18
1949年芥川賞受賞作品。 全く馴染みが無かった作者。読む本が途絶え、何気なく読み始めたが、最後まで一気に。大変上手な作者。綴り方のプロだ。
「さい果て」
津村節子
文春文庫

2010.3.18
1964新潮同人雑誌賞受賞作品。短編集連作五作品の第三章がこの「さい果て」。思った通り、さらっと読める。
「猟銃」
井上靖
新潮文庫

2010.3.19
ともかく最後まで飽きさせず読ませる達人。猟銃の不倫テーマがどうのこうので無く、何か不満足。 
「ソクラテスの妻」
佐藤愛子
中央文庫

2010.3.20
1963年芥川賞候補作品。押し付けがましい筆運びで好きになれない。次回は彼女が自薦している「加納大尉夫人」と、直木賞受賞作「戦いすんで日が暮れて」を読んでみよう。 
「感傷旅行」
田辺聖子
角川文庫

2010.3.20
1963年芥川賞受賞作品。聖女のような彼女の顔をテレビでよく見た先入観からなのか、読者がどう思うかとか、上手に書きたいとか、驚かしてやろうとかなど等、全く思わず好き勝手に書いていると言った感じ。超越している。丹羽文雄が選評で「得体の知れない、ねつこい、何かしら渦巻いているような小説」と言っているが。
「加納大尉夫人」
佐藤愛子
中公文庫

2010.3.24
間違いなく私の好きな100冊の内の一冊候補。何度も書き直して削ぎ落としたかの如く、無駄の無い綴りが良い。著者がこの作品を自薦しているだけの事はある。
「四十八歳の抵抗」
石川達三
新潮文庫

2010.3.27
変化の無い筋運びで最後まで読むのに苦労した。石川達三がよく言う「作者の魂」は感じられなかった。「所詮、人間は生まれた時のように孤独であり、孤独のままで墳墓の土に入らなくてはならない」孤独感が主人公に抵抗せしめたと言っているのか。  
「最後の将軍」
司馬遼太郎
文春文庫

2010.3.29
十五代将軍、徳川慶喜の生涯を描いた作品。フィクションに違いないのに小説仕立てでない歴史教本と思わせる程、精緻。小説と言うより、なるほど、そうだったのかと思わせる人間慶喜研究読本。著者は小生が若いとき全集本を買った数少ない作家の内の一人。 

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(本タイトルのフォント青色の書籍が、私の好きな「100冊の本」候補)

2010.3