「パレード」
吉田修一
幻冬舎文庫

2011.12.9
2002年山本周五郎賞受賞作。都内の2LDKマンションで、これくらいが丁度いいと云う上辺だけの付き合いをする男女四人の若者達。その仲良し仲間に18歳の男娼をする若者が更に加わってくる。その5人それぞれが不安や焦燥感を抱えながらも、本当の自分を装う事で優しく怠惰に続く共同生活が、それぞれ5人の視点で語られる(出版社内容紹介)。最後に、5人目の独白で、本人が近隣で続発する通り魔の犯人である事が明かされる。なおかつ、通り魔の犯人である事を、仲良し仲間は多分知っているのだとも。危うい繋がりを壊す畏れの為に他人への不干渉が今様となっている事が語られているのか。今年10月の、広東省佛山市での血溜まりの中に倒れている女の子を避けて歩く、その不気味さに思わず身震いする事件報道の前触れ作品なのか。吉田修一さんは、読者に読後、不思議な余韻をもたらす作者。読後、思わず電話をしたくなる人だ。文章力も凄い。
「武士道セブンティーン」
誉田哲也
文藝春秋

2011.12.12
剣道に青春をかける女子高生剣士の青春物語。武士道シックスティーンの続編。父親の仕事の関係で福岡に引っ越した早苗は、剣道の名門、福岡南高校に編入し、早速剣道部に入部。 あくまでも武道としての剣道を重視する早苗は、剣道に競技としての完成度を求め勝ち負けにこだわる校風に馴染めず苦悶する。現代女子高生のコメディータッチの日記風の語りで話が進むテクニックには感心する。続編もあるようだか読む気はなし。
「最後の息子」
吉田修一
文藝春秋

2011.12.14
作者27歳の時のデビュー標題作を含む初期の三作品。
「最後の息子」
1997年文學界新人賞受賞作。。オカマの閻魔ちゃんとの同居の日々を録画したビデオテープをさかのぼりながら語る青年の話。最後に、日記に出てくる閻魔ちゃんの名前を修正液で塗り潰し本名に書き換える所で終わる。とてつもなく不可解な物語。オカマとの同居生活を語るだけでは無い事だけは確かである。
破片
1997年上期芥川賞候補作の「最後の息子」に引き続き、1997年下期候補作品。母親を家族みんなの前で泥流に流されて亡くし ている父一人子二人、東京へ出て行った兄と、地元長崎に残って家業の酒屋を継いだ弟、の話。随所に回想される過去で含みを持たせた進め方が巧み。後の横道世之介スタイルだ。
Water
バイク事故で亡くした水泳部の先輩だった兄を継いで水泳部キャプテンになりメドレーリレーで全国大会出場を目指す青春小説。正気をなくした自分の母親、友達の母親の失踪、彼女を巡る確執等、様々な問題 を抱える高校生達の日常をからませ、目頭が熱くなる展開。読者を惹きつけてやまない作者だ。
「新宿鮫」無間人間
大沢在昌
読売新聞社

2011.12.16
1993年直木賞受賞作品。新宿鮫シリーズ第四作。犯罪者達から恐れをこめて新宿鮫と呼ばれる新宿署はみ出し刑事鮫島刑事エンターテイメント作品。新型覚せい剤を密造する中央の政財界に影響を持つ地方財閥分家の兄弟、売りさばくヤクザ、鮫島刑事を妨害する麻薬取締官、人質となってしまう鮫島刑事の彼女等など登場人物がクライマックスに向け複雑に絡み、文句なしに面白い。結末は分かっているのだが興奮の内に500ページに近い大作を一気に読まされてしまう。正にエンターテイメントな作品。
 
「渾身」
川上健一
集英社

2011.12.17
隠岐島水若酢神社境内の二十年に一度の遷宮奉祝記念の奉納相撲大会で名誉ある正三役大関に選ばれた英明。五歳の娘と再婚した妻が見守る中での一世一代の大一番の勝負。物言いがついての取り直しとなった一番は水入り。再会された勝負は、またまた顔面から両人同時に土俵に突っ込む結果での取り直し。四度目の勝負で遂には気を失い負ける事になるのだが。この大勝負で、継母を「あの姉ちゃん」としか呼べなかった五歳の娘が、応援中におもわず「お母ちゃん」と呼ぶようになったり、絶縁状態にあった両親との和解がなったり親子の絆、家族の繋がりが力強く描かれている。準主役の五歳の女の子、脇役の手伝いの伸江、世話役の清一たちが大変魅力的に描かれ話を盛り上げている。小説の大半が迫力ある相撲取り組み場面である相撲小説である共に、涙を堪えられない家族愛小説。 
「夜のピクニック」
恩田陸
新潮文庫

2011.12.18
2005年第二回本屋大賞、吉川英治文学新人賞受賞作。高校最後の伝統記念行事。八十キロの道のりを一昼夜かけて歩く歩行祭。その間、貴子は三年間、誰にも言えなかった秘密を清算する為、小さな賭け事「同じクラスに在籍する、お互い距離を保っていた異母兄妹、西脇融に話し掛けて返事をしてもらう事」をすることにした。最後には、その二人は一緒に歩き、家に遊びに行く約束までするハッピーエンド。小さな賭けごととミステリー風の魅力的始まりなのだが、歩行中、色々な生徒の青春が語られるのは至極退屈。貴子の母が異母兄妹の事実を貴子の二人の友人に打ち明けるのも、その必然が納得できない。大変洒落て器用な展開ではあるのだが無理を感じる。
「中庭の出来事」
恩田陸
新潮社

2011.12.19
「まことに気宇壮大である」と絶賛する、私の好きな浅田次郎の書評で手に取ったが、半分で読み続ける忍耐が切れた。まずもって面白くない。その半分迄もかなり辛抱した。面白いかどうかが最重要と思うのだが。プロの判断には、面白いかどうかに優る要素があるのだろうか。この作者は才に走り過ぎ独りよがりの感が強い。時間をかけて読んでみよう。読了後、果たして見方が変わるか楽しみ。
「三国志 四の巻烈肆の星」(れっしのほし)
北方謙三
角川春樹事務所

2011.12.21
天下と云う因果なものに取りつかれた漢(おとこ)たち、宦官の家系に生まれ鬼神のような戦で魏を築いた天才曹操、関羽、張飛らと義兄弟の契りを交わした漢王朝の血をひく蜀の初代皇帝となる劉備、呉の基盤を打ち立て小覇王と呼ばれる孫策、名門の御曹司袁紹らが情熱をたぎらす。「いまこそ秋(とき)だ。私は、この秋を掴む」と曹操の食客であった劉備は、曹操に造反し徐州を奪回。袁紹軍三十万を十五万の曹操軍が官渡の戦いで破る。
西暦199(袁術、寿春で死去。劉備、曹操に造反、徐州を奪回。)200(孫策、揚州にて暗殺される。曹操、官渡で袁紹を破る)201(劉備、汝南で曹操に大敗)。このころ中米ではマヤ文明興る。
漢たちの生き様に共感し引きずり込まれて読んでしまう。ともかく痛快。下らん本が続いた後は、北方謙三に限る。
 
「新宿鮫」
大沢在昌
光文社文庫

2011.12.23
1991年吉川英治文学新人賞受賞作品。独りで音もなく犯罪者に食いつく新宿鮫と怖れられる新宿署刑事鮫島。警官が連続して射殺された。署内に特別捜査本部が設置されるのだが、鮫島は一人、銃密造者を追う。新宿鮫無間人間が面白かったので、このシリーズ第一作を手に取ったのだが、登場人物が限られ余り絡み合う事もなく緊迫感も生まれない。ヤクザに痛みつけられたと云うだけで警官を殺害すると云うのも飛躍しすぎの感じ。最初にこの本を読んでいたら無間人間も読まなかったのは確か。 
「三国志 五の巻八魁の星」(はっかいのほし)
北方謙三
角川春樹事務所

2011.12.29

常に命がけで果敢に戦い抜く曹操は、袁紹病に死した後の袁譚、袁尚らの後継争いの中、河北四州の制圧に乗り出す。
西暦204(曹操、袁尚を破り冀州(きしゅう)平定)205(曹操、袁譚を破り青州平定)

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2011.12月