「新書太閤記 (十) 」
吉川英治
講談社吉川英治歴史時代文庫

2020.1.5

「汝は、何の能があるか」と信長に問われ「事ある時には、死ぬ事だけを習い覚えております」と答えて信長に取り立てられた秀吉は、信長と違った独味の行き方で勢力を拡大していく。一方、信長の次子、北畠信雄は家康と攻守同盟を結び秀吉に対抗していく。秀吉対家康、信雄の二大勢力の抗争。二つのものの勢力が、二つにとどまって平和の長きを得た例はほとんどない。そして、総兵力約八万八千の秀吉軍に対し、徳川、北畠連合軍、総勢六万七千が小牧山で対峙し戦端が開かれる。 


「新書太閤記 (十一)」
  吉川英治
講談社吉川英治歴史時代文庫

2020.1.21

小牧長久手の戦いで、一部隊といえ家康に完敗するが、秀吉は、信雄と単独和睦する。結果、徳川方は窮地に、敗者の契いとして、家康の実子、於義丸を秀吉の養子に 家康の重臣も、子を質子として差し出す結果となる。信長の死から僅か二年半、信長にあった衆望と栄位は、そっくり秀吉の上に。秀吉は、49歳で人生の最盛期を迎える。
人間とはそもそも不愍な同志の寄合であり、不愍ならざる者はない。世にも不愍な一個の浮浪児、日吉は、たまたま時運に乗じて、大阪城の主となり、私生活も政治上の理想も意志のまま行い得る身に、そして遂には 関白職となり豊臣という新姓氏を創て、豊臣秀吉と称する事となる。

新書太閤記全十一巻、面白かったかといえば、面白くないとは言わないが大いに不満が残った。秀吉に焦点を当てて、秀吉の人となりをもっと語ってほしかった。

日吉はなぜ関白にまでなれたのだろうか。それは、いつも駆け引きなしの一生懸命に拠るところではないだろうか。


2020.2月


 
「ある「BC級戦犯」の手記」
冬至賢太郎
中央公論新社

2020.2.5
福岡出身の冬至陸軍主計中尉は、昭和20年の福岡空襲で母を喪い、「敵を自らの手で」と、4人の米兵捕虜を斬首。敗戦後逮捕され、23年に死刑判決。以来、減刑、釈放される迄の10年間巣鴨プリズンで綴られた死と向き合う懊悩と苦悶、魂の記録。

冬至氏の魂を再生させたのは、「その時、その場において精一杯に最善に生きよと」の油山観音の住職からの一言。
また、巣鴨プリズンでの、「死刑の判決を受けここに来た事は人生稀有のよき錬成の機会。宗教を学べ」との先達の教え。冬至氏は、「母の声を聴くとき、一度でも批判し疑いを持っただろうか 母は即ち仏であり神である 愛や悲しみが科学でないように、神仏も信仰も科学で批判するべきものでない」と信仰に入っていく。そして

「私は今ほど勇気を持ち、生きている喜びを知ったことはありません。死というものは人生の価値の断滅ではなく、実にそれを高揚するものなのです。死なき人生はつまらないものです。死によって人間は始めて本来の自己を知り、その価値発揮を可能にさせられるものではありませんか。」と綴られていく。

人間、死と向き合うとき宗教に入っていくものなのだろうか。


「流れはいつか海へと」
ウォルター・モズリィ(田村義進訳)
早川書房

2020.2.15
2019年度アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作品。
 レイプ犯扱いされ、妻に見捨てられ、警察を馘になった男が、自分を貶めた犯人捜し、と同時に死刑宣告された黒人ジャーナリストの無罪証明に立向かう物語。数多くの登場人物でゴチャゴチャのまま、いつの間にか終結といった感じ。

ハードボイルド作品だとすると、北方謙三のブ゙ラディドールシリーズの方がよほど面白い。

本作家は、「ユダヤ系黒人で、貧しい家庭で育ち、それがあなたの財産なのよ」と励まされ政治学の博士号を取得した努力家。本書には、例えば「弁護士の仕事は法律の運用であり、善悪の判断ではない」と云った箴言が各所に挿入され、何度も頷く事となる。


「蛍草」
葉室麟
双葉社

2020.2.20
 切腹した父の無念を晴らすという悲願を胸に、武家の出を隠し十六歳で女中働きの奉公にでた菜々、前藩主に繋がる勘定方の不正を糺そうとする奉公先の主人が罠に掛かり出戸送りとなってしまう。その罠の首謀者は、かつて母の口から聞いた父の仇であった。密かに剣の修行をしていた菜々は、御前試合で真剣での仇討ちに臨む事となっていく。

日本晴れの読み心地を約束する極上の時代エンターテインメントとあるが、確かに展開が気掛かりで一気に読んでしまうほどの面白さもあり、美しき心映えを胸に、毅然と生きる人が熱く語られ、涙もあり文句が付けようがない。しかし、あまりにも現実離れした御伽話。

藤沢周平の「蝉しぐれ」が思い起こされる。


2020.3月


 
「この国のかたち一」
司馬遼太郎
文藝春秋

2020.3.10
1986年から1996年作者急逝で連載終了するまでの「文藝春秋」の司馬遼太郎巻頭随筆。「統師権」という無限の機能を振り廻し国家を破滅の追い込んだ参謀どもが跳躍した昭和前期の十数年は「日本ではない」ことをあかしだてようという歴史考察。作者は、あとがきで「終戦放送で何と愚かな国に生まれたものかと思った二十代の自分への手紙を書き送るように書いた」とある。

作者珠玉の言葉に胸を突かれ知的好奇心が刺激される。

私が生きた昭和初期の国家は何であったか、40年も考え続けてもよく分からない。ちゃんとした統治能力をもった国なら、日中戦争のさなかにソ連を相手にノモンハン事件をやる筈がない、しかもその2年後に「元亀天正(信長時代)の装備」のままアメリカを相手に太平洋戦争をやるだろうか(4 統師権の無限性) 
大日本帝国憲法第一条「大日本帝国は万世一系の天皇之を統治する」。参謀本部作成の統師綱領・統師参考には、国家事変の場合においては参謀本部は、国民を統治することができる。昭和一桁から二十年の敗戦までの数十年は、「日本でない」と叫びたい。明治人が苦労してつくった近代国家は、昭和10年以降の統師機関によって扼殺されたといってよい(6 機密の中の国家)
将たる者は、人格に光がなければならない。私心がない事が必要で 難に殉ずる精神と聡明さが(12 高貴な嘘) 
今の社会の特性、行政管理の精度は高いが平面的な統一性、また文化の均一性。価値観の単純化。価値の多様状況こそ創造性のある思考や社会の活性を生む。江戸時代の各藩の多様な士族教育制度が、明治の統一期の内部的な豊富さと活力を生んだ(14 江戸期の多様さ) 
老アメリカ人の言「中国人は常にリラックス、日本人は常に緊張、時に暗鬱」。その理由は、日本人は何時も様々の公意識が入るためと断定してよい。日本と中国はどうも両極端(15 若衆と械闘)
田という水稲農耕には、大小無数の峡が水田造成に適し山国とは思えぬほどの多くの集落を生み日本は二千年来、谷住まいの国だった。その典型が甲斐の国(19 谷の国)
仏教には一大体系としての教義がない。神仏による救済の思想さえなく、解脱こそ究極の理想。解脱の方法を示したもの(21 日本と仏教) 


  
「むらさきのスカートの女」
今村夏子
朝日新聞出版

2020.3.20
2019上半期芥川賞受賞作品。近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性の日常が、唯々取り留めなく綴られた物語。ネットでも、何がお面白いのかといった不満の声が多いのだが、これほど毒にも薬にもならない話を、肩の凝らない綴り、言い回しで書き上げるのは半端ではない。

芥川選考委員の評価も、端正、読み手を引き摺り込む手管は見事、 平易な文章、寓話的なストーリー運びの巧み、キャラクター設定の明快さ、淡々とした語りの豪腕ぶりと評価している。しかし私には好きになれない、苦手な小説。


2020.5月 

「ホモ・デウス 上・下」 テクノロジーとサイエンスの未来
ユヴァル・ノア・ハラリ(柴田裕行 訳)  
河出書房新社

2020.5.20
前作サピエンス全史での「我々の来し方」に対し、本作では、「我々の行く末を」見据える。我々は不死、幸福、神性を目指し、ホモ・デウス(神のヒト)へと自らをアップグレードする。しかし、生体工学と情報工学の発達によって、資本主義や民主主義、自由主義は崩壊し、墓穴を掘る結果となる。

とてつもなく哲学的で難解で、ぞくぞくする恐ろしい世界を予測している。心して読まなくてはいけない。

留めたい文章を次に。
(上)
45億年まえ惑星地球の誕生。250万年前、東アフリカで、人類の出現。200年前、産業革命が起こり家族とコミュニティが国家と市場に取って代わられる。人類は、過去10万年間に、食物連鎖の中ほどの位置から頂点に飛躍。重大な一歩は、火を手懐けたこと。見知らぬ人どうしも、共通の神話を信じることによって何億のも民を支配する帝国を築くことができた。人類は、地球の大型動物のおよそ半数を絶滅に追い込んだ。私達が小麦を栽培化したのでなく、小麦が私達を家畜化したのだ。軍隊を強制だけによって組織する事は不可能。指揮官と兵士が、神、名誉、母国、お金であれ何であれ、とにかく何かを心から信じている必要がある。貨幣なしでは、商業ネットワークと市場は、非常に限られたままになっていただろう。貨幣は、最も普遍的で、最も効率的な相互信頼の制度。国や文化の境を越えた単一の貨幣圏が出現した事で、全世界が単一の経済・政治圏となる基礎が固まった。 

貨幣、帝国、宗教の三つが人類を統一する要素。信用が本格的な経済成長をもたらした。正義、自由、更には幸福まで、すべてが経済成長に左右される。遅かれ早かれホモサオイエンスは、地球の原材料とエネルギーを使い果たす。その時何が起こるのか 人間の力と、人間が誘発した自然災害との間での果てしない鍔迫り合いが繰り広げられる。生きる理由があるならば、どのような生き方にも耐えられる。人々が自分の人生に認める意義は、如何なるものも単なる妄想にすぎない。 

自分の先入観、固定観念、常識を覆される かつてアルリカ大陸の一隅で捕捉者を恐れて細々と暮らしていた取るに足りない動物がこの21世紀まで辿ってきた道のりを振り返り、将来を見据える どうやって食物連鎖の頂点に立ち、万物の霊長を自称し地球を支配するに至ったのか 多数の見知らぬ者どうしが協力し、柔軟に物事に対処する能力をサピエンスだけが身につけたからだ 神話、神々、宗教と云った大勢の人が共有する 虚構  企業、法制度、国家、国民、さらなは人権は平等や自由までもが虚構 私達の価値観を根底から揺るがす 一万年前に始まった農業革命で新たな局面を迎える かつて狩猟採集をしながら小集団で暮らしていたサピエンスは、定住し統合への道を歩み始める その原動力となったのが、貨幣、帝国、宗教と云った三つの普遍的秩序 500年前に始まった科学革命が空前の力を獲得し始めるきっかけ。

(下)
科学の進歩は、望みどうりの秘薬を造り出せる。誰もが経済成長こそ目標を実現できるカギと信じている。永遠に成長し続けられるのだろうか。ナノテクノロジー、遺伝子工学、AIがまたしても生産に大改革を起こし果てしなく拡大を続ける。真の強敵は、生産環境の破壊 進歩と成長の勢いが増すにつれて、生態環境を不安定にする。生態環境の破壊は、経済の破綻や政治の大混乱、生活水準の低下を招く。現代社会を崩壊から救ったのは、革命的新宗教、人間至上主義の台頭。人間の体は、およそ37兆個の細胞からできている。インドや中国、ギリシャの思想家は、「個人の自己は幻想である」と主張。時が流れるとともに、人間をコンピュウターアルゴリズムに置き換えるのは、ますます簡単に。地球のほとんどは、国家と企業に合法的に所有されている。自由主義に対する脅威、人間が完全に価値を失い外部のアルゴリズムに管理される。私たちは、心というものを本当に理解していない。人間には電磁スペクトルのほんの一部しか見えていない。スペクトル全体は、可視光線のスペクトルのおよそ10兆倍の幅がある。同様に存在しうる精神状態のスペクトルは無限かもしれい。

私たちは今後十数年に、インタネットのような革命を幾つも目にするだろう。そのような革命では、テクノロジーが政治を出し抜く。人間よりさらに多くのデーターをさらに効率的に処理できるデーター処理システムを創り出せたなら、そのシステムのほうが人間より優れている事になりはしないか。「すべてのモノのインターネット」がうまく軌道に乗った暁には、人間はその構築者からチップへ、さらにはデータへと落ちぶれ、ついには急流に呑まれた土塊のように、データの奔流に溶けて消えかねない

「人間は、最後の最後に、何かエイリアンやロボットやスーパーコンピューターには思いもよらず、理解できない「愛」のおかげで勝利する」とも。「これからの変容に対し、ぜひ従来とは違う形で考えて行動してほしい」と結語している。


 
 
2020.6月 

「ファーストクラッシュ」
山田詠美
文藝春秋

2020.6.15
父の愛人の子が、その母が亡くなり家に引き取られてきた。母を含め、三人姉妹の皆がその男に夢中となり、姉妹三人の三者三様の想いが語られる。「穏やかな水を張られた人生に、熱く焼けた石が投げ込まれ、そしてその飛沫を浴びて何度も何度も火傷を負う」と。

苦しみも悲しみも哀れも何も感じない、まして感動もない。ファーストクラッシュとは、初恋との事。


2020.7月 
「彩り河」 上・下
松本清張
文藝春秋

2020.7.10
第二の職場、高速料金所で、今は社長となった嘗てのライバルを乗せた元愛人に、7年ぶりに会う。その愛人が映画館で殺されたり、元ライバルが山梨山中で首を吊ったり急展開を見せる。

ただし、犯人は「上」の中ごろから察しがつき、読者に納得させ得る展開があるのか否かの関心だけで読み続ける。

書評の一つに、「彩り河」は、煌びやかな夜の街の裏側にある権力と財界の癒着の実態を暴き出していく社会派小説。「この小説は、社会的に無視され、抹殺された「見 えざる人間」たちの「見えざる悪」に対する復讐譚とあるが、確かに綿密に調べを尽くして書かれた物語。

最後まで面白くは読めるが、読後の気分は良くない。陰湿な展開が多く余り好きでない作家なのに、なんで、この37年前の本をわざわざ借りたのか分からない。

「陰の季節」
横山秀夫
文春文庫

2020.7.25
1998年松本清張賞受賞作、1998年直木賞候補作品。感心しながら読み始めるも、何となく読んだ感じがし、調べてみると矢張り、7年前に読んでいた。7年前の記憶があるのは矢張りいい作品だからなのだろう。
 
「小箱」
小川洋子
朝日新聞出版

2020.7.26
楽器を耳たぶにぶら下げた演奏者。夜の丘で、死んだ子の声に再会。子供の遺髪は、楽器ばかりでなく、人形にも用いられる。

不気味でも良いんだが、訳の分からない展開に我慢ならず途中でギブアップ。


2020.8月
 
「利休にたずねよ」
山本兼一
PHP文芸文庫

2020.8.10
2008年直木賞受賞作品。秀吉の茶頭となる程の存分の信頼を得ていた利休が、秀吉に切腹を命じられる。

命の艶やかさを秘め、ただ一椀の茶を静寂のうちに喫する事だけに心を砕いてきた千利休。天下を動かしているのは、武力と銭金だけではない。茶の湯の美しさに対する尋常ならざる凄まじい執着が語られる。その裏には、利休が十九のとき、利休が殺した女が利休の中で息づき、その女に茶を飲ませたい、その一心で茶の湯に精進してきたと。

凄絶な美しさをたたえ、近寄りがたい威厳に満ちていた利休の一生。

羨ましい人生である。「梢うつ雨にしおれて散る花の惜しむ心を何にたとえむ(西行)」の世界でなく、何ものも惜しんでない生き様。

一方、敵役の秀吉は、本性はむさぼり、貪欲が着物を着て歩いている、女と黄金にしか興味のない下司で高慢な男、おごりをきわめ顔つきは品無くみすぼらしいと蔑まれている。  

「DEATH 死とは何か」
シェリー・ケーガン(柴田裕之 翻訳)
文響社

2020..8.20
イエール大学で23年連続の人気講座で、「死の本質 死に直面しながら生きる 人生の価値の測り方」といった魅力的な目次が目をひくが、読む値打ち無し。原書の16章のうち、肝心の6章が縮訳版となっている。

人は、人格を持った特別な物体で、ありとあらゆる種類の機能を果たすことが出来る人格機能を持っている。一方、私たちはただの機械、有形物にすぎず、人格機能を果たすことのできるただの身体。二元論と物理主義、この二つのかなり異なる形而上学(神、霊魂等を対象とする学問)的な見方のどちらを選ぶか、どちらが正しいか。
 

消化、運動、拍動、呼吸と云った身体機能 高次の様々な認知機能 認知機能は身体機能があってこそのもの。身体が壊れ始めきちんと機能しなくなった時に人は死ぬ。両方の機能を同時に失う。

この意味で、人は、人格機能を果たせるただの身体にすぎない物理主義者の立場が最も妥当と筆者は結論しているのだが、この肝心の所が翻訳されていない。どうでも良い屁理屈がグダグダと述べる処が翻訳されている。

縮約にした出版社の意図が分からない。

人は、自分が死んでいるところを思い描くのが不可能で「自分が死ぬ事を本気で信じていない」。フロイトも「無意識の中で、誰もが自分は不滅だと確信している」と。 
  
「誰もがやがて死ぬ」ことがわかっているいる以上、どのような生き方をするべきか。真摯に向き合って考える必要がある。私の結論は、「今の今を楽しく生きていく」だ。それ以外にない。


2020.9月
「すぐ死ぬんだから」
内館牧子
講談社

2020.9.1
「老後の今、好きなように生きて何が悪い」と、「人は中身よりまず外見を磨かねば」と張り切る78歳。ところが、55年も連れ添った夫が急死し、悲しみのどん底に。自分を放棄して生きていく意欲がなくなった最中、「お前は、俺の自慢、俺の宝、お前と結婚した事が一番良かった」と言っていた夫が親友の妹との、42年もの不倫をしていた事が発覚。
同じ墓に入りたくない。死後離婚してやる。すぐ死ぬんだから楽しまなくては損と、自分が自分に関心を持つ、品格のある衰退の道をと励む。

面白くもおかしくもない、退屈な話であった。死後離婚があることを始めて知ったことぐらい。


「反日種族主義」日韓危機の根源
李栄薫
文藝春秋

2020.9.13
韓国を「ウソつきの国」と言い切り、日韓関係を危機に陥らせた数々の「嘘」を指摘し韓国を震撼させたベストセラーの日本語版。慰安婦問題、徴用工問題、竹島問題などを実証的な歴史研究に基づいて論証、韓国にはびこる「嘘の歴史」を指摘。

韓国の嘘つき文化は、司法まで支配する。政府が嘘つきの模範を。嘘をつくことに寛大な文化を大多数の韓国人は納得。日本には、反日種族主義。日本を永遠の仇と捉える敵対感情。

韓国の民主主義には、自由で独立的個人という概念がない。 自由精神の欠如こそが大韓帝国の滅んだ根本原因。お金と地位を最高の価値とする精神文化が物質文化にからめとられている。物質文化は嘘をつくことに寛大。

韓国の民族はそれ自体で一つの集団であり、一つの権威であり、一つお身分。むしろ種族と云ったほうが適切。嘘が作られ広がるのは、伝統的なシャーマニズムや宗教観からくる韓国特有の偏執的な精神現象、集団的心性に因る、と。 

祖国愛があるからこそ辛辣な言葉が出るのであろうが、私としては、様々な問題の歴史的論証よりも、韓国の嘘つき文化、嘘をつくことに寛大な文化をより掘り下げて欲しかった。


「血脈」上
佐藤愛子
文春文庫

2020.9.29
大衆小説の人気作家佐藤紅緑が妻子を捨て、新進女優、シナを一方的に激しく愛した事に始まった佐藤家の人々の壮絶な物語。紅緑の頭にあることは、シナを喜ばせたいというただ一つの事だけ。シナは、舞台女優として成功したい。男の力を借りないで、自分一人で生きてみたい。男などどうでもよかった。

悪い女に欺されて子供をすてたと思っていた息子二人は、手に負えぬ不良少年になった。その一人は、サトウハチロー。母親は病気で寝たり起きたり。佐藤家の家族は文字通りチリチリバラバラに。

紅緑は家族を犠牲にして、自分一人の幸せを掴んだ筈だった。紅緑の妾のところへ寄宿させられたシナは、私は一人で自由に生きたい。自由になりたい。紅緑の愛は、愛ではない。ただの情欲であり執着だったと思い決めていた。

だが、シナは三度の流産の後、末娘、愛子の誕生によって紅緑に結び付けられ、離れられぬ宿命を漸く受け入れる事となる。


 
2020.10月
「時代小説傑作選」
宝島社

2010.10.5
短編時代小説のベスト5。
「国を蹴った男」伊藤淳
 今川義元嫡男、氏真の蹴鞠技で生き残る話
「赦免花は散った」笹沢佐保
 木枯らし紋次郎第一作。八丈島に、身代わりで島送りに。
「錯乱」池波正太郎
 松代藩真田家の相続問題を扱った直木賞受賞作。
「笊ノ目万兵衛門外へ」山田風太郎
 辣腕の町奉行同心、万兵衛の凄まじい生き様の話。2010.5来の再読
「直江山城守」坂口安吾 
 上杉景勝に仕えた関ケ原首謀者の一人、直江兼続の話。 

 
「日本近代小説史」(新装版)
安藤宏
中央公論新社

2010.10.10
日本近代小説を、坪内逍遥の「小説神髄」から村上春樹まで網羅する日本近代小説史教科書。
時代変遷、その時々の要請への対応、数えきれない代表作品の紹介で、今まで「点」であった事実が「線」に「面」に拡がっていく大変な教科書。

「河童・或阿呆の一生」
芥川龍之介
新潮文庫

2020.10.19
龍之介の最晩年の6作品。筋のない不可解な展開だと厭になるのだが、何故か読み切ったと云った感じ。何度読んでも不可解であろう。

「大道寺信輔の半生」-ある精神的風景画ー
龍之介のこれまでの作品には、ついぞ見た事のない不思議な憂鬱なものがあると評された未完の作。
「玄鶴山房」
人生の暗澹さが描かれた作品。
「蜃気楼」
龍之介自信作との事で、不気味な美しさがあると。
「河童」
ある精神病患者が語る風変わりな話。大きな反響の中、「苦しみ喘いでいる作者の痛ましい無信仰の告白」との評にだけ龍之介の心は動いたとの事。
「或阿呆の一生」
芥川龍之介の芸術と生涯が語られる51篇、死を前にした龍之介の一生を鳥瞰した見取図との事。
「歯車」
龍之介の凄惨な苦痛そのものなのか。龍之介持病の閃輝暗点で眼科医云々の話が出て来るが、小生の閃輝暗点の時は、眼科医に行ったら脳神経内科を紹介された。治療方法はない。


 
2020.11月 
「高野聖」
泉鏡花
角川文庫

2020.11.10
近代の最大の幻想文学、面白くて妖しくも美しい。何といっても艶麗な文体、筋運びの巧さに魅了される。ただ、読解力が足りないのか、話の終わり方が、良く分からない。表題作含む5短編。手元に置いておきたい、何度でも読みたい本。

「高野聖」
若き日、飛騨の山越えで幻視した世界の終末を語る高僧の話。人と自然への慎みが貫かれていると説明されているのだが。

「夜行巡査」
車屋の老車夫が、恋は命である事を姪に思い知らせる話。人間の醜さ、身勝手さが描かれている。

「外科室」
伯爵夫人が、心の秘密を譫言で言うのを恐れ手術の麻酔を拒絶する純愛の話。

「眉かくしの霊」
白鷺かと思われる程の美しい女性の霊の話。


「三島由紀夫」
岩波新書
佐藤秀明

2020.11.25
50年前の今日、「われわれは戦後の日本が経済的繁栄にうつつを抜かし、国の大本を忘れ、国民精神を失ひ、本を正さずして末に走り、その場しのぎと偽善に陥り、自ら魂の空白状態へ落ち込んでゆくのをみた」と自決した三島由紀夫の生涯と文学の概説書。
仮面の告白、金閣寺、豊饒の海、その昔読んだがまったく分からなかった。「憂国」のみが鮮明に記憶に残る。この概説書も理解不能であった。
以下、メモとして。三島の同性愛指向は、根拠のない伝説。三島、30才の時、「大体において、私は少年時代に夢見たことをみんなやってしまった」が、「英雄たらんとしたことは実現していない」と。三島は没後に成長し長生きしている。三島由紀夫は「死後に成長する作家」(秋山駿)。三島檄文は、注意深くあるいは慎ましくさえあって、国民に向けてのものでなく、他人への覚醒のものでもない。自衛隊員に向けてのもの。 


2020.12月
 
「流人道中記」上・下
浅田次郎
中央公論新社

2020.12.10
姦通の罪で言い渡された切腹を拒み、蝦夷へ流罪となった旗本と、その押送人となった19歳の見習与力二人の奥州街道北への流人道中記。先の展開が気になって一気に読んでしまう涙、感動の物語。
権威、家の尊厳 武士とは何か、家とは何か。人々は皆、その犠牲者。何と苦に満ちた世間、掟のしがらみに苦悶する人々、親の仇を探し旅する侍、無実の罪を被る少年、病を得て故郷の水が飲みたいと願う女達、抜き差しならぬ事情を抱えた人々を、流人旗本と見習い与力二人は暖かく助けていく。
武士はその存在自体が理不尽であり、罪ですらある。神道無念流の天下無双の達人であるその流人旗本は、理屈に合わぬ儀礼と慣習で身を鎧った武士道と云う幻想を否定し、家を破却すると決め、おのが身を、千年の武士の世の贄(にえ)とした。掟とは何かを問う重たい本。


「悲しみとともにどう生きるか」
柳田邦男、平野啓一郎他
集英社新書

2020.12.15
「「ゆるやかなつながり」が行き直す力を与える」 柳田邦男
様々な喪失体験者が孤立しないでゆるやかにつながり合うことが大切。絵本を読むことで心の潤いを。命や死には人称性があり、誰の死かによって死の意味は変わる。亡くなった人たちが、人をつなぐ役割を果たしてくれる 残された人に行き直す力を。 
「悲しみとともにどう生きるか」 平野啓一郎 
赦すというかたちで苦しみを終わらせる。すべての人の基本的人権を尊重。個人を一つのアイデンティティーに縛り付ける事が、社会的分断、対立の始まり。分人の集合として自分を捉える。私とは何か、「個人」から「分人」へ。


「忌中」
車谷長吉
文藝春秋

2020.12.25
 「平成七年は、私の身には凶事(まがごと)の連続だった」で始まり、最後は、「芥川賞候補作、漂流物を落選とした芥川賞選考委員の人形(ひとがた)に、死ねッ、天誅ッと五寸釘を打ち込む」度肝を抜かれる短編、「変」で惹かれて読んだ表題作を含む六短編。
「古墳の話」 殺された女友達の話
「神の花嫁」 浄い美しさの女を想い少女人形を抱く男の話
「忌中」 妻の不治の病をきっかけに破滅し自殺する男の話

飾りのない乾いた綴りには惹かれるが何とも毒がある死小説で読み続ける気がしない。



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2020.1月